悪ノ物語

□ふたつの涙
1ページ/2ページ



「――なによ、これ…」

 その場の空気が凍った。
 黄色ノ王女は、その青い瞳を見開き声を震わせる。
 揺れる瞳がなおも釘付けにされているのは、高級羊皮紙の手紙。

 そこには青ノ国の紋章がしっかりと記されていた。

「―どうして」

 ぱさり、と、力無く羊皮紙が絨毯の床に落ちた。

「―どうして!?」

 王女は叫んだ。
 玉座の間にいた使用人たちは、一様に王女の方を見る。

 大臣が慌てふためいて弁解を綴った。

「…し、使者によりますと―なんでも青ノ王には既に婚約を心に決めた方が―」
「そんなの―ッそんなの全部書いてあるわ!! 分かり切ったこと言わないでよ!!」

 ビクリと身体を震わせた大臣に、王女は半狂乱のまま叫ぶ。

「死刑よ!! アンタも、みんなみんな死刑!! 嫌い!大っ嫌い!! 出てって!! 皆出て行きなさい! 早くッ!!」

 多少動揺した家臣たちは、次々に玉座ノ間から消えていく。
 全員が完全に消え去るまで怒鳴り散らしていた王女は、その場から人が消えると同時に床に膝を付いた。

「…きらい―」

 震えた声が、部屋に反響する。

「さみしい…」

 しかし、その声に反応する者はいなかった。
 誰一人として。



 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ