悪ノ物語

□恋
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 今日は海の向こうに住む青ノ国の王が、この黄色ノ国に来る日だった。

 青ノ国から送られた壺は、あの後大変なお金と労力を駆使してなんとか修復した。…そのお金は、王女が民衆から搾り取った物だが。
 彼女に相談したボクだって同罪。彼女を悪と呼ぶのなら、ボクも同じ罪を犯している。

 とにかく、どうにか青ノ王を迎えることができそうだ。
 友好の証として送られた壺が壊されていたら、相手国にはその気がないと取られても仕方がない。

 実は、今日はボクも少しだけ楽しみにしていた日でもあった。
 青ノ国の王。若くして政権を握った、青ノ国の統治者。

 そう、王女と同じだ。


 どんな人物なのか。また、この先黄色ノ国と友好的な関係を結ぶ気があるのかどうか。
 王女付き召使いとして、会議やお茶の時間には王女の傍らに配属されるだろう。

 だからお目に掛かれるか、―とは、思っていたのだが…。


「…うまく行かないな…」

 今ボクは、数人の付き人と共に馬車に揺られている。

 ――緑ノ国に行くためだ。

 これは完全に大臣の過失だった。緑ノ国訪問と青ノ王来国を同一の日に設置してしまったのだ。
 まもなく、新しい大臣が配属されるだろう。

 王女は激怒した。だが、今更どちらかをキャンセルするわけにもいかない。
 王女に贔屓にされている者ら総出で王女を宥めて賺して、なんとか僕が王女の代役として出張するまでに漕ぎ着けた。

 ふと外の景色を見れば、伝統を重んじた風景が窺える。
 石畳の街道には緑を繁らせた木々が並び、その木漏れ日の中を馬車は進んでいく。

 緑の名に恥じない風情だ。


「―レン様」

「…ん? なんだ、呼んだか?」

 同伴した、家臣の一人だった。

 悪ノ娘の事は皆が恐れているが、その真意を漏らして打ち首を防ぐボクの事は、友好的に捉えている者も多い。

「今、何を考えました?」

「…きっと同じだよ」

 黄色ノ国は今、大変な不作と貧困に瀕している。
 それに加え、政府の重税と支配は続く。

 このように国内を馬車で走っても、見える景色は苦しむ民衆と枯れた畑のみだ。

 緑ノ国の住民は、一見して幸福そうな表情をしている。

「――いい国だな、緑ノ国(ここ)は」

「…誠に、その通りです」

 国の統治者が考えるべき事はただ一つ。国民の幸福と平和。
 この国は、それを認識する事ができる統治者が治めているのだろう。

 黄色ノ国に決定的に足りない。
 …王女は、自分の楽しみだけを優先する。国民は税を払う道具でしか無い。

 ―本当ならば、彼女は失脚させるべきなのだろう。
 一番側に付き仕えるボクが、それを触発するべきなのかもしれない。

 ――でも、そんな事はできない。

 彼女が幸せならそれでいい。
 彼女が幸せでいられないなら、その原因はボクが排除する。
 それだけが全てだ。

 民衆を彼女がゴミ程度だと言うのなら、それはボクにも同じ事。
 それ以外に、一体何が必要だというんだ?

「王女様にも見習って欲しい物ですが…」
「―聞かなかった事にするよ」

 彼女の見方は、ボクしかいない。
 ボクは彼女を裏切らない。

 だから、ボクは絶対的に彼女を守らなくてはならない。

 彼女は今どうしているだろうか。
 …楽しくしていると、良いのだけれど。



 
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