悪ノ物語

□教会の鐘
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 高らかに、かつ、厳かに。
 教会の鐘は鳴り響く。身体に響く重たい音を、遠き地にも届かせようとするように。

 報せは、一対の子の誕生。まるで全身で祝福するように、鐘は協会の頂上で身を震う。


 ――その歓喜に湧く鐘とは反し、人々の表情は晴れない。

 そうであることが当然だというように同じ腕に抱えられていた姉弟は、今の瞬間――引き離された。


 その赤子たちは泣き喚く。互いを求めても、小さな力では及ばない。


 姉を抱えたのは、豪奢な服を身に着けた王族の者。彼等は平然と、片割れを求める赤子を王宮へと連れ去る。

 弟が託されたのは質素で簡素な服の、民衆の女性。重く沈んだ表情のまま女性は深く頭を下げ、遠くに聳える城に背を向けた。

 切り離された血縁という絆。泣き声は次第に遠ざかり、それぞれの扉に完全に絶たれる。


 大人の都合に翻弄され、切り離された双子。


 片方は国の頂点に。

 片方は凡庸の世に。


 ――しかし、二人は引き合う。揃うことが前提なのだ、と、まるで知っているかのように。

 『悪ノ』世界でも、厭わないのだ、と。



教会の鐘






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