導かれし者達

□第二章 おてんば姫の冒険 U
1ページ/4ページ





 町に入った途端、わたし達はその賑やかさに驚いた。

 すぐ脇を駆けていく女の人を呼び止める。

「あの! ――ちょっとだけ、いいかしら」
「あっ、よその人ね! ようこそ、ここはフレノールの町よ。今サントハイムの王女様が来てるって大変なの!」

「…へ?」
「……はい?」
「な、なんですと?」

 揃って素っ頓狂な声を出しちゃった。
 だって…サントハイムの王女って、わたしだったはず…。

「ごめんね、もう良いかしら? 早く行かなきゃ!」

「あっ」

 その人が向かったのは、町の宿屋だった。なんだか人だかりもできている。

「ふぅ…やれやれ。いずれこんな事になるのではないかと思っていましたわい」

 溜め息をつきながら、いつもみたいにブライが呟く。

「どうしてばれちゃったのかしら? 言った覚えはないんだけど…」
「噂とは予想以上に出回りやすいもの。そういったことに敏感な輩もおります。だからわしはあれほど…」

「――あ、でも! わたし見てみたいわ。わたし達のニセ者!」

 話を遮られたブライは少しむっとして黙った。
 クリフトは荷物を持ち直す。

「――何としても、まずは行ってみませんか? ちょっと疲れました…」
「そうじゃな…もうわしは腰が痛くて強わんわい。じぃは早く休みたいですじゃ」

「そう? わたしは元気いっぱいだけど!
…あ、でもニセ者に本物ですって宣言したら面白いかしら!」

 わたしの冗談に、ふたりはぎょっとしてこっちを向いた。

 ……あれ?

 …冗談に聞こえなかったのかな?








 ただみんなが傍観するだけの宿屋に入ると、カウンターの旦那さんは申し訳無さそうに笑った。

「ああ、申し訳ないですねぇ。今日はお姫様が来てるっていうんで、宿泊はできないんですよ」

「な…ッそんな! なんでニセ者は泊まれて本物の私達は泊まれな――むぐっ!?」
「そう? ごめんなさいね、でもちょっと会っても良いかしら?」

「ニ…? ホンモノ? ……あ、ああ…勿論構いませんけど…。
失礼のないようにしてくださいね、なんせこの国のお姫様ですから。
…あの、あとお連れさんは大丈夫ですか? 段々顔が青ざめて…」

「え? ――ああ、クリフト! 大丈夫? ごめんね、鼻まで押さえちゃった!」
「ひ…ひめさ……」

「――行きますぞ。ほら、シャキッとせんかクリフト!」
「は…はうう……」


 どうしてブライに引っ張られたのか分からなかったけど、確かに目的は変わらなかったしついて行った。よたよたしてるクリフトは引き摺って。

 階段で、一端立ち止まる。


「ねぇブライ、どうしてさっきは珍しく強引に…」
「この阿呆が! さっき姫様を呼びそうになったからじゃ」

 ブライに殴られたクリフトはちょっと帽子がズレただけだったけど、何故か半泣きで言った。

「うう……申し訳ありません…」

「まぁ姫様にもまともなウソがつけるようで、わしは少し安心しましたがな」
「だってバレちゃいけないんでしょう? こういうのってあんまり好きじゃないけど、きっとニセ者さんにも事情があるんだろうし…仕方ないわよね」

「はっ、どうですかな。――さぁニセ者め、どんな面をしているか拝んでやろうぞ」

 珍しく意気込んだブライが、先陣を切って階段を登っていった。

 わたしは、クリフトをちらりと見る。

 正直者が馬鹿をみるっていうのは、わたしは嫌い。

 けどそんな羽目になっちゃったクリフトがちょっと可哀想にで、申し訳なくて。
 私はまだ少し苦しそうなクリフトの手を引っ張った。

「ほら、行くわよー!」
「う、わ――ひっ…姫様っ!?」
「つらかったらわたしが背負ってあげましょうか!」
「え…っ!? そそそそんな…!! え、遠慮いたしますっ!!」

 わたしは手袋をしているから、クリフトの手の感触はよく分からない。

 けどじんわり暖かい温もりが、掌を通して伝わってくる。

 それがあったかくて、ちょっぴり嬉しかった。

「…―」

 笑ってしまったのは、わたしだけの秘密。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ