導かれし者達

□第一章 王宮の戦士たちU
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 遺跡には、地下へ降りる階段があった。側に生えていたコケには、小さな足跡が残っている。

 子供達がここに訪れていたことは確かな様だ。この下に、行ったという事も。


 不安定な階段を下ると、予想外。そこに広がっていた地下の空間は開けていた。どこからか光が射しているのか、以外にも視界は良好だ。


 しかし、それでもモンスターはいるようだ。油断はならない。


「…こんな所に秘密でやってきて…。少しばかり子供がやんちゃしたいのは理解できるし……それでこそ子供という気もするがな」

 だが……こんな世界では少しやんちゃする事もできないのか。少しばかりのやんちゃが命に関わりかねない。

 しかし、それを少しでも平和にするのが王宮戦士の役割というもの。悲観するくらいならば、望む未来に掛けて戦うべきだ。


 ―と、その時


『―こっちへおいでよ』

 なにか―聞こえた。幼い声だった。


 ぴたりと動きを止め、聴覚を研ぎ澄まさせる。方向、声の主、それらを少しでも特定しようと。

 尤も、きっとそれは無駄なことだろうが。


『―こっちだよ』

 方角は、分からない。周囲を取り囲む洞窟の壁に反響するように――…否、まるで、壁全面がその声という音を発しているように、霧散した声の出所を掴むことは出来ない。


「――お主は、何者であるか」

『こっちへおいでよ』

「話にならぬ、神妙にせよ!姿を現せ!」

『――驚かれちゃ、嫌だよ。
こっちへきて。僕に会いに来て』


 その声は子供のように悪意が無く、無邪気に聞こえた。

 それはもう、こちらが拍子抜けるくらいに。


 この洞窟の中に、的確な目的地があるわけではない。道も分からない。

 どうせ彷徨うだけなら、行けるところまで行ってみようか。


『こっちだよ』

 とにかく、まっすぐ行くことにした。

 二手に分かれる場所では、間違った方へ行くと違うと声が言う。段々下へと向かっている気がする。


『そう、ここだよ』


 そのフロアでは、声はそう言った。

 やっと声の主に会える。何者だろうか。まさか、誘拐事件の犯人という事など。

 万が一に備え、剣を握り直した。


「ここ」

 声が近い。
 開けた空間だった。
 地下水が泉のように溜まり、静かで穏やかな空気が流れている。

 だからといって、油断するのは良くない…の、だろうが…。


 不覚ながら、すっかり気が抜けてしまった。少し舌の足らない子供の声で呼び寄せられては。


「――こっち」


 それでもその姿を拝むまでは気を張り直して、じりじり、壁の向こうを、

 見た。


「―!! お主―!」

 私の声が、洞窟内に反響して響いた。
 壁際にいた、それは、

 青く透き通った身体。
 幾本も生えた触手。
 地面から浮いた足。

 人ではない。

 魔物…―ホイミスライムだ。

「驚かないで! ボク、悪いホイミスライムじゃないよ。人間の言葉を話せるようになったんだ」

 確かに、人の言葉を話す魔物になど会ったことがない。

「ボク、人間になることが夢なんだ。…あ、そうだ! 人間の仲間になったら人間になれるかなぁ?」

「そ、それは…どうだろうか」

「ねぇ、きっと役に立つから、ボクも連れて行ってよ! それに、この洞窟の案内もできるし…」

 こいつは、悪い奴ではないのかもしれない。
 それにこの洞窟は、道中に通った洞窟とは比べものにならないくらい複雑だ。
 魔物にも一人では手を焼いている。
 ……ホイミスライムなら、回復もしてくれるかも知れない。

「あなたはなんて名前なの?」

「私は―…」

 ホイミスライムの攻撃力は弱い。不意をつかれても対応できる。大丈夫だ。

「……私は、ライアン。バトランドで王宮戦士をやっている」

「ライアンさん? そりゃあすごいや!ボク、戦いは苦手なんだ…。でも、ホイミはできるからケガしたら言ってね」

 彼の名はホイミンというらしい。
 今日はもう一人バトランドの戦士に会ったが、仲間になるのを断られたという。

「……まったく、失礼しちゃうよね! ボクが魔物だからってさ!」

 大変憤慨という事なのか、ホイミンが怒って言う。

「……あ、そうだ。今日来たその人が何か靴を見つけていったんだ。子供たちが空も飛べるかもって言ってたんだけどね、あのおじさんもお空飛びたかったのかな?」

 空を飛ぶ?
 あの湖に建つ塔にも…空を飛べれば入れるかも知れない。

「その靴はどこにあるんだ?」

 あの塔は怪しいと、ずっと睨んでいた。でも侵入する術がわからなかったのだ。

 まさか、こんな所で糸口を掴めるとは。
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