導かれし者達

□神の正体
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 午後の風が、戦いに疲れた皆の髪を撫でていく。

 今は高原に馬車を止め、休憩をとっている最中だ。

 勇者のルートも、今はクリフトの隣、木漏れ日のちらつく中で眠っている。

 ミネアとマーニャは相変わらず、仲がいいのか悪いのか判別の付かないお喋りを続けていた。
 揃って美形なため、遠くから見てとても目の保養にな―……いや、聞かなかった事にしていただこう。

 少し離れた岩の元では、トルネコが武器屋らしく愛具の手入れをしている。

 ライアンはどこかで素振りか何かをしているようだ。姿は確認できないが、声だけは微かに聞こえてくる。

 誰もが思い思いに時間を過ごす中、クリフトは浅葱色の空を見上げ、一人溜息をついた。

「………」

 ゆっくりと、奔放な姿形をした雲は流れていく。

 隣ではルートが安らかに寝息をたてていた。

 その頬の小さな切り傷に気付き、密かにホイミを唱える。
 微かに微笑んだ後、…再び、唇から息が漏れた。


 ――最近、解らないのだ。

 信じるべき神は、―神とは、一体何なのかが。

 解らなくて、だけども職業上信じない訳にはいかなくて。

 今まで、幼いときから重ねてきたモノが根本から崩れそうで。

 純粋無垢に、鵜呑みにできない自分も大嫌いで、

 ……もう、わからない。
 一体なんだろう。

 ――では神が居るなら、この世界は一体なんだ。
 なぜこうも荒廃して、悲劇と嘆きに満ちているんだ。

 魔の者には怒りの制裁を下すのが神なのでは?

 ……それとも、神は我々を見捨てたとでも?

 世界を創ったような方が、私達を見捨てた?

 それこそ考えにくい。

 ――私はいかに生きるべきなのだろう。
 何を信じ、何を守ればよいのだろう。

「……〜ん…シンシア……」

 勇者の、寝言。

 彼は、何を信じて戦うのだろう。
 故郷をなくした勇者は、何を糧に生きるのか。

 私は、いったい何を――


「……なぁに真面目に考えてんだ」
「わっ!」

 いきなり、ルートさんが私の頭を掴んだ。
 その所為で帽子が落ちる。

 ……何時の間に起きていたんだ、この人。

「……どーしたクリフト。ぐちゃぐちゃ考えてんじゃねーよ」
「考えていたなんて―」

 ルートさんアップが早くないか。

「…気苦労が多いよな、お前もさ」

 …何だ、急に。
 私が考えていたことなど知る由もない。
 なのに、まるで読んだような事を言う。

「…ぜ、全部…、分かっているんですか?」

「いや、分かんないけど」

 ………そうあっさり言わないで欲しい。

「――分かんないけどさ、難しい事考えてんのは分かったぜ。眉間に皺寄せんなよ、老けるぞ」

 ……と、言うことは。

 …見ていたのか。寝たふりか。なんて悪質な。寝言も演技だと言うのか。ホイミにも気付いていたのか。気付いておきながら悠々昼寝だなんて、随分と趣味が悪いじゃないか。

「やめてくださいよ、からかうのは」
「からかってはいないだろ。励ましてるのに」

 どこがだ。

 そうなのか? 私が疑い深いだけなのか?私の心が荒んでいるだけなのか!?

 ……まずい、考えが極論化してきた。

「―だぁからそんな顔するなーって」
「あ、ちょっ!?」

 両手で眉間を引き伸ばされる。

 絶対にひどい顔になっている。
 幸い、真ん前にいるルートのお陰でクリフトの顔は公開されていないが。

「やめてくださいよ!! ちょっと、ルートさん!?」
「ぶははははは!! すげー!クリフト間抜け面!!」

 ――ぷちり

 耳元で、細い紐が切れるような音がした。

「―ザキ!ザキ! ザラキ!!」



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