パレット・マジック
□旅立ち
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人知れぬ山の奥に、名もないような小さく平和な村があった。
メイコはその村人の一人。
村が人に知られてはならない理由。こんな山奥にひっそりと潜む理由。―それは、彼女の兄にあった。
今日はその兄が旅立つ日である。
朝から、あれこれとせわしなく作業をしていたメイコは、剣を取った兄にぴたりと手を止めた。
「兄さん。…やっぱりもう行っちゃうのね」
―兄のメイトは少し驚いたような顔をした。が、すぐにいつも通り、元気強く笑った。
「―おう。俺は勇者だからな!」
「うん、…そうよね」
弱気に目尻を下げたメイコも彼女らしく、強がって言う。
「行くからには絶対に世界を救うのよ! 分かった?」
「言われなくても圧勝だって」
呆れたように肩を竦めたメイコの顔も、すぐに笑みに変わり、
揃って、声を上げて笑った。
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