電子的日常

□ハロウィン/2010
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 ―ここの所、皆が騒がしくなってきた。

 もとから元気なリンやグミについては、その元気さを2倍と言うよりは2乗分くらい加算してはしゃぎまくっている。

 それに付き合わされるレンは、文句を言いながらもまんざらではないようだ。

 がっくんについてはルカちゃんをおちょくるので忙しいようだし、当のルカちゃんはがっくんとの絡みで手一杯な様子。


 ミクは毎日、めーちゃんと料理や飾り付けの雑談に花を咲かせている。



 ……まぁ、つまり、俺が言いたいことは…――もう、察しがついたと思う。


 俺はイベントにあんまり興味がない。

 だから催し事の季節になると、暇でしょうがないのだ。


 ミクオとかメイトの所に行ってもどうせ一緒だ。皆ハロウィンで盛り上がっている。


 ……と、いうことでここ数日間、家で一人アイスを舐める日々が続いている。
 せめてがっくんが居ればこんなにつまんなくないのに。


 足音と、ドアの開く音がした。話し声も聞こえる。


「めーちゃんとルカちゃんだ」


 珍しい組み合わせだ。あの二人が絡んでいるところは、ここの所あまり見ていない。


「めーこ、お帰り」

「ん、なに?」


 なにじゃないでしょ、とか、柄にもなくイラっとしたりとか。
 このほんの少しの心の波風も、ここ数日間に渡っていることだった。

 俺は本来、こんなに短気じゃなかった筈だ。


「あー、カイトまたアイス食べてんの?」

「…いいでしょ別に?」


 誰の所為だよ。

 せめてめーちゃんがもうちょっと構ってくれれば、アイスの消費量だって大幅に減るはずだ。


 …とか、内心怒っている俺はどうやらそれに気付かれたくないようだ。

 怒っているなら怒った顔をすればいいのに、繕うようにまた笑っている。


 ……コレの所為だ。マスターにギャップがなんとかって言われるのは。

「―がっくんは?」

「がくぽなら家で留守番中ですわ。わたし、めーこさんとお買い物がしたかったので」


 まあルカちゃんだって四六時中がっくんと一緒に居たい訳じゃないだろう。
 女の子同士、相談したいこともあるのかも知れない。


 ……なんだ、がっくんは家に居たんじゃないか。

 ばかみたい。


「…ルカちゃんはちょっとゆっくりしてったら? めーちゃんも荷物置いてきなよ、俺お茶煎れとくから



 めーちゃんはへらへらっと笑った。


「ん、ありがと。…じゃ、ルカちゃん。その荷物私の部屋に置きに来てくれる?」

「ええ、勿論ですわめーこさん」


 2人は賑やかに話しながら、廊下の奥に消えていった。


 俺は重たい腰を上げて、カウンターの向こうのキッチンに向かった。


 あの二人だから紅茶で良いだろう。

 ポットが空だったので薬缶をコンロに掛けてお湯を沸かす。


 この世界は電子情報上の設定でしかないくせに、何故かオール電化ではない。

 マスターがそうプログラムしたから…なんだが、それってつまりマスターがアナログ派って事……なのか?

 いやいや、だったら俺達は存在していないだろう。



「…はー……」


 ……苛々する。


 子供じゃないんだ。

 構ってもらえないとか、仲間外れな気分だとか、そんな下らない事に杞憂しなくったっていいじゃないか。

 初めてって訳でも有るまいに。


 ……でも、やっぱりこれは面白くない。

 どうして皆、そんなに無邪気にはしゃげるんだ。
 何が楽しい?


 ボーカロイドに子供の頃は無いけれど、子供みたいにイベントに夢中になっている皆を見ていると――

 なんだか、変な気持ちになる。


 それを形容することはできないけど、分かるのはただすごく苛々するってことだけで。


 …そう言えば、俺は映画や本でも泣いたことがない。


 …薄情者なのかな…。



「あ、ちょっ…!!? っのバカイト!!」

 めーちゃんが走ってきて、俺は突き飛ばされた。食器棚の出っ張りに背中をぶつけた。


「…っぶない―!!」


 めーちゃんがかじり付いたコンロの薬缶は、底の辺りがほんのり赤くなっている。

 二人分しか入れなかった水はすっかり蒸発して、薬缶を空焚きしていたようだ。


「…あ、……ごめん」

「ごめんじゃないでしょ!! 火事になったらどうするつもり!?」


 ―俺が悪い事は確実なのに、

 俺はムッとしてしまった。



「――謝ったじゃん。…何がいけないの」

「はぁ!? バカイトあんたねぇ、側にいたのに火事とか冗談じゃな―」



「―うるさい」



 その声は、俺の声とは別物なんじゃないかと思うほど迫力があって、

 逆上した頭の端で、我ながら驚いた程だった。


 めーちゃんの驚いた顔が俺を変に冷静にさせる。
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