サイダー飴


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「教科書50ページ、ここ予習しておくように。」

まるで暗号のような数学も終わり、後は帰りのショートにみになった。

散らかした消しかすを床に落し、ノートをコンコンと揃えて鞄に入れる。
ペンの先を揃えて筆箱にしまう。
そしてそれも鞄にしまう。
いつも通りゆっくり帰り支度をしていると、担任が教室に入ってきた。

朝、遅刻等で居なかった者の出席確認をし、
連絡事項を簡単に伝えた。
「最近不審者が出没しているらしいから気をつけろよ。特に女子な、固まって帰れー」


昨日も不審者が出て、
全身黒の男が、女子高生に声をかけているらしい。
酷いときは抱き着いて来るっていう話し。


はぁ、変態もいたもんだ。
よそでやってくれ。
いっそのことそいつの素性暴いて、警察に突き出したいわ。

「まぁ、伝達事項はもうないし、少し早いが解散しよう」

担任の言葉を合図に、起立、礼の号令が掛かった。










「おーい今川!」

校門を出て少し歩いたところで、聞き覚えのある声に呼ばれた。

「なんだ渡辺か」
足を止めた私の横で自転車から降りる男。
「なんだとは何だ。ちゃんと先生を付けろ!渡辺先生だぞ!」

相変わらず能天気な髪の毛だな、教師の癖に茶髪かよ。
という悪態は心の中だけで納めておくことにした。

「渡辺先生、何の用?」

「あぁ、お前このあと暇だったりする?」

今日はバイト無いし、特に予定も入れていなかったな。
でも、なんかめんどいなぁ…

「まぁ…………………暇。何?何かするの?」

「何その間。いや、前にホラーゲームやりたいって言ってたろ?クロックタワーシリーズ有るからやりに来ないか?」


そういえばそんなこと言ってたな。
よく覚えてるなぁ、と感心する。
まったく、そういうところはマメだよこの男は。昔っから。
「じゃぁ着替えたら行く。先生は仕事してなくていいの?」

「あぁ、昨日のうちに殆ど片付けておいたから、最低限の事しか残ってないんだ。お前の為にやったんだぜ。」

偉いだろ、と太陽のような眩しい笑顔を向ける。
渡辺は、大人とは思えないくらい子供のようによく笑う。
小さい時からそうだ。渡辺の泣いた顔を見たことが無い気がする。

なんだかなぁ。この男は何処にそんなエネルギーを秘めているんだ。

「じゃぁ晩御飯作ってあげるよ。おつかれさん。」

「あぁ、オムライス以外でな!」

そういえばいつも作る物はオムライスだった。
一度、覚えたてのオムライスをもてなした時、
馬鹿みたいに喜んで食べてたのをきっかけにお約束になったんだっけ。

「贅沢をいうんじゃない。」
「えー、なんだよそれ。」

大人が膨れっ面したって可愛く無いのよ。
まぁ天然だろうけど。


「あ、バスそろそろ来るから私行くね」
「おう、またあとでな」




私はバス停に向かう坂を駆け降りた。
他の生徒に絡まれている渡辺の声は、段々と遠ざかった。
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