テニプリ

□手塚 2
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「その代わり……」

名無しさんが何かを耳打ちしたとたん、手塚が今まで見たことのないような笑顔を見せた。

『ひ、ひぃぃ!!』

叫び出しそうな口を慌て押さえ、思わず後退ってしまった。

「名無しさん……愛している」

そう言うと、そっと名無しさんの頬に手を添え、自分の方に引き寄せる。

さすがの菊丸も、その後の展開は容易に想像できる。

『み、みちゃダメにゃ……見ちゃ……』

そう思ったものの、足が好奇心に絡め取られて動かない。

そこからは、まるでスローモーション。

手塚の唇が名無しさんの唇に重なり……。

「どうしたの、英二」

「ひっ!!!!」

突然肩を叩かれ、菊丸は文字通り飛び上がってしまった。

「何をそんなに驚いてるのさ?」

振り返るとそこにいたのは、笑いをこらえている不二だった。

「ふふふ、不二?!」

声まで裏返る菊丸を、ますますおもしろそうに見ている。

「なんでこんな所に突っ立ってるの?中に入ればいいじゃない」

「いい、今はダメ!ダメだにゃ!!」

不二はディフェンスする菊丸を軽々とかわすと、ドアを叩いた。

「手塚〜、入っても平気?」

と言いながらドアを開けてしまう。

「ふっ、不二ぃ〜!!」

慌てて不二を引き留めようとした菊丸も、引きずられるように部室に入ってしまった。

「不二……返事を聞いてからドアを開けろ、といつも言っているだろう」

見ていいのか悪いのか、不二の背中からおそるおそる顔を出すと……。

『にゃにゃ〜っ!!』

「いいじゃない。それにしても……ホントに仲良しだね君たち」

そこには名無しさんの腰に手を回したまま、涼しい顔をして二人を見る手塚の姿があった。

手塚は人前で絶対そんなことしないと思ってたのに。

「そろそろみんなが来る時間だよ」

「そうか……名無しさん、後で連絡する」

「うん」

嬉しそうにふわりと笑いながら離れる名無しさんの手を、手塚はそっと握る。

「気をつけて帰れよ」

「は〜い。菊丸くん、不二くん、お邪魔しました」

にっこり笑いながら部室を出て行く名無しさんに、菊丸は思わず見とれてしまった。

『ほぇ〜、かわいいにゃ〜』

「菊丸」

そんな菊丸にかけられる、冷たい声。

「にゃ?」

視線を移すと、自分をにらみつける手塚と目があった。

『ひぇ〜!!おっ、オレ、何もしてないにゃ〜!!』

「なぜすぐに入ってこなかった?」

「へ?」

「ずっとドアの前に立っていたろう」

「にゃ……!!」

菊丸は、全身の血が一気に下がっていくのを感じる。
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