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□いたずらもほどほどに
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主がケガをした、と言う話しは瞬く間に本丸中を駆け巡った。
本来ならば真っ先に飛んでくるはずの近侍三人衆(特に長谷部 )は、そろって出陣やら遠征やらに出払っている。
慌てて右往左往する内番の男士や、留守番組の短刀達にテキパキと指示をするのは、たまたま残っていた石切丸だった。
「大丈夫かい?とりあえず、薬研が戻ってくるまでの辛抱だからね」
「……うん」
いつも元気な名無しさんの、痛みに耐えながらの返事は、ちょっとクるものがあったが……そこは向こうへ押しやって、そっと頭を撫でる。
「これは一体どういうことだ」
ひたり、と抜き身の刀を首に付けられ、石切丸は固まる。
主に気を取られて、反応が遅れた。
「長谷部くん、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!」
刀身全体から溢れ出る殺気を隠そうともせず、長谷部は言い放つ。
「はせ……べ」
近侍の顔を見て安心したのか、名無しさんはボロボロと涙をこぼしはじめた。
「ああ、主!痛むのですか⁈おかわいそうに……もう大丈夫です、この長谷部がお側におります!」
本体を鞘に収めて主に駆け寄る長谷部に、ふぅ、と胸を撫で下ろした瞬間
「どうしたの、主。何でそんなに泣いてるの?」
ひたりと首筋に当たる刀身。
「みっ、みっちゃ……」
長谷部同様、殺気を隠そうともしない近侍その二・燭台切が石切丸の背後に立っている。
「ちが……石切丸は……違う……」
「そうなの?すまなかったね、石切丸」
しゃくりあげる主の言葉をしっかり拾った燭台切は、長谷部と同じく主の側へ跪く。
と言うことは。
「おやおや、どうしたのだ、主。何やら泣いているようだが。足もタライに突っ込んで…ん?随分と腫れているようだが……」
出た!
近時三人衆の「らすぼす」!
天下五剣にして、最高の刀・三日月宗近!
二人とは比べものにならない殺気を漲らせ、石切丸の背後に立つ。
殺される。
心の底からの恐怖に、石切丸は息もできないほどだ。
しかも、三日月は本体を抜いてもいない。
「み、三日月〜」
盛大に泣き出した主に、あっという間に殺気を収め、そっと抱きしめる。
「よしよし、このじじいが『イタいのイタいの飛んでけ〜』してやるぞ」
「うん、うん」
まるで幼子のように三日月の腕の中で頷く主の前で、石切丸はヘナヘナと座りこみ深く息を吐き出した。
お、オレが一体何をしたって言うんだ……。
でも、それで終わった訳じゃなかった。
「「「で?一体なにがあったんだ?」」」
3人分の殺気を一気に向けられ、とうとう石切丸はノックアウトされた。
ことの顛末はこうだった。
先日、イタズラ好きのびっくりじーさんこと鶴丸が掘った落とし穴に、五虎退と小虎たちが見事に落っこちた。
幸い浅い穴だったのでケガこそなかったが、驚いた五虎退は泣きじゃくるわ、保護者の一期は般若もかくやと言わんばかりに怒り狂うわで、危うく本丸が全壊する事態となった。
そんな一期の元、罰として鶴丸は庭に掘ってあった穴を、一人で全部埋めさせられていたのだ。
そのうちの一つを埋め忘れていたようだ。
そこに主が落ち、左足首を捻挫したというわけだった。
「鶴よ、わかっているだろうな」
殺気を垂れ流しながら発した三日月の言葉に、鶴丸は震える体を止めることができなかった。
その日、主の落ちた穴に首まで埋められ、虎たちのおもちゃになっている鶴丸がいたことは言うまでもない。