テニプリ
□あなただったんだ
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「え……永四郎!」
顔を真っ赤にして、半ばやけになって呼ばれた名前。
「!!」
その瞬間、全身を雷に打たれたような衝撃が走る。
なん…なんだ…。
ムードもへったくれも、あったもんじゃない。
でも、なぜかオレは固まったまま動けなくなった。
名前を呼ばれた。
ただ、それだけ。
それだけの事なのに、身体中、いや、魂が震えるほどの衝撃を受ける。
今まで呼ばれていたのは、何だったんだ?
それは本当に自分の「名前」だったのか?
名無しさんに呼ばれた瞬間、「永四郎」と言う言葉が初めて意味を成し、自分の中にスポッとおさまったような気がした。
まるで、パズルの最後の1ピースがピタリとはまったような感覚。
やっと自分が「木手永四郎」として、完全なものになったかのようだった。
自分の中に起こっている嵐のような感覚についていけず、固まったままのオレを、名無しさんは心配そうにのぞきこむ。
「え、永四郎?」
そんな呼びかけにハッと我にかえった瞬間、オレは名無しさんをぎゅっと抱きしめていた。
この人だったんだ。
オレがオレであるために、絶対に必要な存在は。
「名無しさん……オレには……オレには君しかいない」
「ちょっ……苦し……」
そんな存在にめぐり会えた幸福に打ち震える。
「君だけだ……絶対に一生離しませんよ」
何があっても…絶対に。
「永四郎〜!」
ためらいなく呼ばれるようになったオレの名前。
でもオレは呼ばれるたび、胸の奥底がいつも震えている。
それはとても幸せで…それがなければ、きっと「木手永四郎」という存在自体が消えてしまう。
「何ですか、名無しさん」
オレの名を呼びながら、腕の中に飛び込んできた唯一無二の存在を、優しくゆっくり抱きしめた。