テニプリ
□やっぱり、そうだ
1ページ/2ページ
「木手〜」
「…………」
「ねぇ、木手〜」
「…………」
部室で調べ物をしていた名無しさんは、何度呼んでも返事をしない木手をいぶかしんで顔を上げた。
すると、不機嫌オーラ全開の木手とばっちり目が合う。
文句を言おうと開きかけた口を閉じ、名無しさんは首を傾げる。
「……木手?」
頭の中で不機嫌の理由を考えてみるけれど、まったく思いつかない。
じっと木手の顔を見つめていると、呆れたようなため息をつきながら、向かい側にいた木手が名無しさんの隣にするりと回り込んできた。
「……オレは」
「?」
「オレは君の何ですか?」
真っ直ぐに自分の目を見つめて尋ねてくる木手の言葉を反芻して、名無しさんの頬はみるみる真っ赤に染まっていく。
「名無しさん」
恥ずかしさで視線を逸らそうとするのを許さない、とばかりに名を呼ぶ。
「もう一度聞きますよ。オレは君の何ですか?」
「……か、彼氏……です」
ヘビに睨まれたカエルの様に、冷や汗をかきながら小さな声でそう告げる。
「その彼氏を、いつまで苗字で呼ぶつもりですか?」
恨みがましい目をされ、名無しさんは視線をを泳がせる。
付き合い始めて半年。
クラスメイトとしての時期が長かったせいで、どうしても苗字で呼んでしまう。
「もう『木手』は卒業してくれませんか、名無しさん……」
机の上にあった手をそっと握りながら、耳元でささやく。
「他人行儀で……寂しいじゃないですか」
名無しさんの肩に、コツンと額をつけてつぶやく。
ズルい。
その甘え方はズルい!
心の中で叫びながら、もうこんなことされたら呼ばないわけにはいかないじゃん!と意を決して口を開く。
「……ろ」
ポツリと漏らした声に、木手がピクリと反応する。
ううっ、恥ずかしいっ。
平古場とか甲斐が呼んでる、ああいうイメージだ!
「……え……しろ」
いきなり始めたイメトレが役に立つわけもなく、なかなか声に出せない。
でも。
「え…永四郎!」
半ばやけっぱちで、叫ぶように呼んだ名前。
「……………?」
あれ?
いつまでも反応がないのをいぶかしんで、知らぬ間につぶっていた目を開けると……