テニプリ

□木手 1
1ページ/3ページ

「本当にきみはダメな人ですね」

メガネのブリッジを押し上げながら、言い放つ木手に、名無しさんは唇を噛み締める。


親の転勤で沖縄に来て半年。

同じクラスになった木手にうまいこと言いくるめられ、テニス部のマネージャーになったのがそもそもの間違いだった。

テニスなんて、やったこともなければルールだって知らない。

専門用語だってなんとか覚え、要領もなんとかわかってきたけれど、こうして怒られることは日常茶飯事。

独特のイントネーションには慣れた。

ただ、自分を見る冷ややかな目には、いつまでたっても慣れない。


「でも」

「なんですか?」

「ワタシだって…一生懸命やってるもん」

すべてが初めてで、さらに新しい環境のなか、名無しさんなりに一生懸命やってきた。

自分からすすんでなったマネージャーではないけれど、最近はやりがいだって感じている。

なのに。

「『一生懸命』と言えば認められると思っているのですか?」

「?!」

「一生懸命なんて、当たり前のことでしょう」

木手はこうやって、名無しさんの努力を砕くようなことを言うのだ。

「そんな甘い考えだから、つまらないミスを繰り返すんですよ」

刺すような視線で名無しさんを一瞥し、練習に戻ろうとした木手に、今までの鬱憤が爆発した。


「…ったわよ」

「?」

「わかったわよ!もう、いい!!」

大声をあげた名無しさんに、振り返った木手がフリーズしている。


どんなに仕事が大変でも、きついことを言われても。

絶対に泣くもんか、と頑張ってきた名無しさんの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「?!」

と、同時に、名無しさんはテニスコートから走り去っていた。



なによ、なによっ!

木手のバカ!アホ!トンマ!

初めての土地に、初めての学校。

知り合いも誰もいない上、特有の方言が飛び交うなか、とても心細い思いをしているところにかけられた

「マネージャーになりませんか?」

の声。

戸惑いはあったけれど、名無しさんはとても嬉しかった。

自分に居場所を作ってくれた木手に、迷惑がかからないようにとやってきたつもりだったけれど…もう限界だ。


木手にとっても、ハズレくじだったに違いない。

途中で辞めるのは不本意だけれど、みんなに迷惑がかかるなら辞めた方が…

なんて考えていると、また涙が溢れてきた。


と、校舎の角を曲がったとたん、何かに思い切りぶつかった。

「きゃっ…!」

倒れる…!

弾き飛ばされ、後ろにひっくり返りそうになる腕を、強い力で引き戻された。

「っと!大丈夫か?」

なぜか頭の上からした声に、顏を向けた。

「?!そ、そんなに痛かったか?!」

驚きながら名無しさんを見ていたのは、同じクラスでバスケ部の辺見だった。

「えっ、違うよ!」

「でもお前、泣いて」

はっとして頬を触ると、濡れているどころか、ぽろぽろ涙がこぼれている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ