テニプリ

□手塚 1
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その瞬間、何かにどん、とぶつかった。

それと同時に体をぎゅっと拘束される。

何が起こったかわからないままに、耳元でささやかれたのは、絞り出されるような苦しげな声。

「……好きだ!」


忘れ物を取りに戻った教室にいたのは、青学どころか、全国にも名を轟かせているクラスメイト。

名無しさんが密かに思いを寄せている人物でもある。

一言、二言言葉を交わし、何かの拍子に落ちてしまった本を手渡そうとした瞬間の出来事だった。

とっさのことに言葉も出ず、されるがままになっている名無しさんに、彼はさらに言いつのる。

「ずっと……好きだった。もうオレは……この思いを抑えることができない……!」

普段の彼からは全く想像もできない、熱をはらんだ言葉に、名無しさんの心は震える。

「好きだ……好きなんだ、苗字……!!」

絶対に離すまいとするかのような腕の力に、体が熱くなる。

「手塚……くん」

やっとの思いで紡がれた名に、手塚がぴくりと反応する。

「あ……そ、その……すまない!!」

慌てて名無しさんの体を解放する手塚の腕を、反射的に掴んだ。

この機会を逃したら……次はないかもしれない。

そんな思いが一瞬にしてよぎった上の、咄嗟の行動だった。

「……っつ」

「返事は……いらないの?」

「え」

「自分だけ言いたいこと言って……何も聞かずに逃げちゃうの?」

「……」

「そんなのずるい」

そんな風に名無しさんが言うと、泳がせていた目をぴたりと止め、視線を合わせた。

まるで射貫かれそうなほどの、真剣な瞳。

「オレは」

名無しさんはしっかりとその視線を受け止める。

「オレは、おまえが好きだ。オレと付き合ってくれないか」

まじめな彼らしい告白に、名無しさんは満面の笑みで応えた。

「はい」

何を言われたかわからないような惚けた顔をする手塚に、名無しさんはくすりと笑いながら言葉を続けた。

「わたしもずっと手塚君のことが……きゃっ」

「……夢みたいだ……」

ぐいっと手を引かれ、手塚の胸の中でそんなつぶやきを聞く。

「それはわたしの台詞……っていうか、最後まで言わせてくれないの?」

くすくすと笑い続ける名無しさんに、手塚はちょっとばつが悪そうな顔をして腕の力を緩めた。

「わたしも手塚くんのこと……好きだよ」

そんな名無しさんの言葉にうっとりとしたため息を漏らす。

「でも」

「?」

「手塚くんが、こんなに熱い人だったなんて……初めて知った」

「うっ……」

今までの自分の行動が恥ずかしくなったのか耳まで真っ赤にする。

冷静沈着な手塚の意外な一面に、名無しさんは笑みをこぼす。
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