SBR

□こひしかるべき…
1ページ/1ページ

夜半過ぎ。

静かに障子の開く音がして、意識が覚醒する。

これは…政宗の気配。

「どうしたの?」

私がかけた声に驚きもせず、ドサッと枕元に座ると

「眠れねぇ」

と、不機嫌な声が返ってきた。

政宗が戦や所用でいない時、あとは今日のような時以外、二人は必ず一つの床で眠る。

今日はなぜ別かと言えば。

「月の障りだからダメだと言ったでしょう?」

一つの床で眠る、と言っても文字通り「眠る」時もあれば、肌を重ねる時もある。

どちらかと言えば、肌を重ねる方が多いのだけれど。

いつもの月の障りの時は、政宗に抱きしめられて眠るだけだったのだが、前回、政宗は私を抱きたがった。

応えたいのは山々だったけれど、やはりイロイロ気持ちのいいものではない。

そこのところをうまく話して、いつものように眠ろうと思ったのだが…政宗が強硬に私を抱いたのだ。

翌朝、どんなことになっていたかは、推して知るべし…だ。

怒った私は、それからしばらく政宗と口をきかず、「ごめんなさい、もうしません」と言うまで床を別にし、許さなかったのだ。

「そんなのわかってる」

「じゃあ、ちゃんと自分の床に戻って」

「だから、一人じゃ眠れねぇんだよ!お前が…一緒じゃなきゃ」

最初は威勢がよかったけれど、最後の方は蚊のなくような声なのが…可愛い。

「昨日は一人で寝られたでしょ?」

「…てねぇよ」

「ん?」

「寝てねぇんだよ!…ずっと…起きてた」

布団から政宗の方を見ると、口を尖らせてそっぽを向いている。

「奥州筆頭」の肩書きと、「独眼竜」の異名を持つ政宗のこんな顏…私の他に知っている人間はいないだろう。

大人と子供が混在する政宗。

だからこそとても魅力的だし、目が離せない。

自分に甘えてくる政宗がとても愛しくて…なんだかぎゅっと抱きしめたくなった。

「約束」

「あ?」

「約束ちゃんと守れる?」

「…守る」

子供のような返答がまた可愛らしくて、私は布団を片方持ち上げた。

するりと入ってきた政宗は、すぐに私の胸に顏をうずめる。

「あぁ…名無しさんだ…」

ぎゅっとしがみつくみたいに抱きしめられ、私も政宗の頭をそっと抱き込む。

あぁ…政宗だ…

同じような事を思っていたことがなんだか嬉しくて、クスッと笑ってしまった。

すると、何を勘違いしたのか、政宗がチッ、と舌打ちしたのが聞こえる。

「shit!覚えてろよ、honey」

私は何も言わず、サラサラの黒髪をそっと撫でる。

「次に抱くときは…朝…まで…寝かせ…ねぇ…から…な…」

言い終わるか終わらないかのうちに、穏やかな寝息が聞こえてきた。

寝てない、って言うのは本当だったみたいだ。

「期待してるわ、政宗」

そっと呟き、額に唇を落とすと、この世で一番愛しい温もりを抱きしめながら、ゆっくりと目を閉じた。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ