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□こひしかるべき…
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夜半過ぎ。
静かに障子の開く音がして、意識が覚醒する。
これは…政宗の気配。
「どうしたの?」
私がかけた声に驚きもせず、ドサッと枕元に座ると
「眠れねぇ」
と、不機嫌な声が返ってきた。
政宗が戦や所用でいない時、あとは今日のような時以外、二人は必ず一つの床で眠る。
今日はなぜ別かと言えば。
「月の障りだからダメだと言ったでしょう?」
一つの床で眠る、と言っても文字通り「眠る」時もあれば、肌を重ねる時もある。
どちらかと言えば、肌を重ねる方が多いのだけれど。
いつもの月の障りの時は、政宗に抱きしめられて眠るだけだったのだが、前回、政宗は私を抱きたがった。
応えたいのは山々だったけれど、やはりイロイロ気持ちのいいものではない。
そこのところをうまく話して、いつものように眠ろうと思ったのだが…政宗が強硬に私を抱いたのだ。
翌朝、どんなことになっていたかは、推して知るべし…だ。
怒った私は、それからしばらく政宗と口をきかず、「ごめんなさい、もうしません」と言うまで床を別にし、許さなかったのだ。
「そんなのわかってる」
「じゃあ、ちゃんと自分の床に戻って」
「だから、一人じゃ眠れねぇんだよ!お前が…一緒じゃなきゃ」
最初は威勢がよかったけれど、最後の方は蚊のなくような声なのが…可愛い。
「昨日は一人で寝られたでしょ?」
「…てねぇよ」
「ん?」
「寝てねぇんだよ!…ずっと…起きてた」
布団から政宗の方を見ると、口を尖らせてそっぽを向いている。
「奥州筆頭」の肩書きと、「独眼竜」の異名を持つ政宗のこんな顏…私の他に知っている人間はいないだろう。
大人と子供が混在する政宗。
だからこそとても魅力的だし、目が離せない。
自分に甘えてくる政宗がとても愛しくて…なんだかぎゅっと抱きしめたくなった。
「約束」
「あ?」
「約束ちゃんと守れる?」
「…守る」
子供のような返答がまた可愛らしくて、私は布団を片方持ち上げた。
するりと入ってきた政宗は、すぐに私の胸に顏をうずめる。
「あぁ…名無しさんだ…」
ぎゅっとしがみつくみたいに抱きしめられ、私も政宗の頭をそっと抱き込む。
あぁ…政宗だ…
同じような事を思っていたことがなんだか嬉しくて、クスッと笑ってしまった。
すると、何を勘違いしたのか、政宗がチッ、と舌打ちしたのが聞こえる。
「shit!覚えてろよ、honey」
私は何も言わず、サラサラの黒髪をそっと撫でる。
「次に抱くときは…朝…まで…寝かせ…ねぇ…から…な…」
言い終わるか終わらないかのうちに、穏やかな寝息が聞こえてきた。
寝てない、って言うのは本当だったみたいだ。
「期待してるわ、政宗」
そっと呟き、額に唇を落とすと、この世で一番愛しい温もりを抱きしめながら、ゆっくりと目を閉じた。