ふたご姫の部屋

□恋しい夜
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月の王国の王子シェイドは、自室で月の国の王子の正装に着替えていた。
月を思わせる淡い黄色に、銀糸で縫い取りのある、美しいものだ。
普段は白の中でも、黒系の服を着ることの多くなったシェイドだが、今日ばかりは、そうはいかなかった。
なぜなら−−今日は、かわいい妹ミルキーの誕生日だったからだ。今日で5歳になるミルキーのために、月の王国では、盛大にパーティーを開くことになった。
もちろん、各国のプリンス・プリンセスも招待している。
シェイドは、いつものポーカーフェイスを装ってはいるが、その態度は、少し浮ついていた。

彼女に会える−−。

ロイヤルワンダー学園を卒業して、ふしぎ星に戻ってきた彼らに待っていたのは、以前にも増しての公人としての役目。
元々アクティブなシェイドは、今でも国内を自由に視察して回っているが、さすがに国外に出ることはなくなった。
自由に他国へ入ることができないところが、公人の難しいところだ。
だから、想い人にも会いに行けない。
これで、おおっぴらに恋人と言えるならまだしも、口実がない。
学園での5年間で、何とか友人を脱し、友達以上恋人未満にはなれたが−−恋人−−?という感じで終わってしまった。 シェイドは、最愛の彼女を思い起こした。
空色の澄んだ髪、よく表情の変わる大きな目と、その中の透き通るような青色の瞳。

ふう−−と、ため息をつく。

何故、こんなにも愛しいのか。
少し気の強いところも、他人への気遣いにあふれた優しいところも、そのくせ、寂しがりやで甘えん坊なところも−−全てが愛しい。


「シェイド様。そろそろお時間です。」
「わかった。」
シェイドは居住まいを正し、一度鏡の中の自分を見てから、部屋を出た。


「みなさま、本日は、ミルキーの誕生パーティーに、ようこそおいでくださいました。楽しんでいってください。」
ムーンマリアが、招待客に、その優しい声で挨拶をする。
彼女から少しさがったところに控えていたシェイドは、さりげなく会場を見渡し、愛しい少女の姿を求めた。
おそらく仲のいい双子の妹と一緒にいるだろう。あの二人なら、そうとう目立つ。
赤い髪の少女を見つけた。ニコニコと満面の笑顔でミルキーを祝っている。
…だが、この隣に青い髪の少女がいない。
もう一度、会場を見回してみるが、どこにも見当たらない。
すぐにでもファインに問いつめたかったが、みんなの視線を集めているこの場所から動けなかった。
(母上…ミルキー…、あいさつは、ほどほどに−−)
不謹慎にも、そんなことを考えた折り、ムーンマリアが締めの言葉を口にした。
「それでは、皆様方、楽しんでください。」
会場に音楽が流れ、それぞれが思い思いに動き出す。
そうなっても、シェイドに自由行動は許されなかった。
ムーンマリアやミルキーと共に、各国要人たちに、挨拶をして回らなければならない。
宝石の国のブライトやアルテッサ、メラメラの国のリオーネやたちと挨拶を交わすが、レインのことを聞くわけにもいかず、焦る気持ちをよそに、時間だけが過ぎてゆく。
やがて、食いしん坊のミルキーが、食事をしたくて騒ぐと、ムーンマリアは、仕方なさげに、二人を解放してくれた。
(ファインはどこだ−−?)
見渡すと、案の定、料理の乗ったテーブルに張り付き、一心不乱に食べている。
駆け寄って、彼女の二の腕を引いた。
もしゃもしゃと口を動かしながら振り向いたファインは、にこっと笑った。
「あ、シェイド。」
「レインはどうした?どこにもいないようだが」 その言葉を聞いて、ファインはムウッと口をとがらせた。
「挨拶もそこそこに、レインのことなんて、失礼じゃない?」
「…ああ、すまん−−」「心配なのはわかるけどね。教えるの、どうしようかなぁ……、シェイド、失礼だし。」
「おい…ファイン……」 ファインから告白されたのを、思い切り断った経緯もあり、何となくばつが悪くて、ファインには強く出られない。
それを知ってか知らずか、ファインはニッといたずらっぽく笑った。
「うそだよ。レインね、昨日から風邪ひいちゃったの。本当は、とっても楽しみにしてたんだけど。レインって、ああ見えて、とっても寂しがりやだから、今ごろ……」
「ありがとう!ファインっっ」
皆まで聞かず、シェイドは駆け出した。
背後で何人かが声をかけてきたが、今はそれどころじゃない。
急いで気球に乗り込むと、空へと駆り出した。 月の城が眼下へと遠ざかってゆく。
(ミルキー、ごめん)
少し後ろめたさを感じつつ、
(でも、今行かなきゃいけない気がするから…。)
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