ふたご姫の部屋

□清らな夜の聖なる歌
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 事件が解決してほっと一息吐いたところで、彼らは最後に手にしていたプレゼントをそれぞれが持って、再びホールに入る。
 そしてパーティーが再開された。
 シェイドと踊る約束をしていたレインは、今度こそちゃんと踊ろうと、ホールの中をくまなく探すが、肝心の少年の姿がなかなか見つけられない。
(さっきのプレゼントの感想を聞こうと思ってるのに、何でどこにもいないのよ)
 ホールのどこにも見あたらないし、誰かと踊っている様子もないので、理不尽な怒りだとは思うが、レインは不満だった。
(男性の方から私を見つけてダンスの申し込みをしなきゃいけないと思うんだけど。また私が誰かとダンスをしてもいいのかしら)
 人のいない廊下にまで出て周りを見回すが、やっぱりいないようだ。
 がっかりしてとぼとぼと宛もなく歩いていると、何者かにぐいっと腕を引っ張られた。
「何! 誰なの!?」
 レインがとっさに声を上げると、その何者かがレインの口を塞いだ。バタンとドアの閉まる音がして、レインは背後から抱きすくめられる。彼女は恐怖に身を縮こまらせた。わからない相手に動きを封じられるのは心底肝が冷える。
 しかし、次の瞬間、耳に流れ込んできた聞き慣れた声に、全身の力が抜けた。
「大きな声を出すなよレイン。せっかく2人きりになれる機会ができたんだ。人がきたら困る」
 相手も腕から少し力を抜いたので、レインは体をひねって背後を見る。そこには穏やかな顔をしたシェイドがいた。
「いきなりなんだもの。驚くわよ」
「ああ、そうだな。驚かせようと思ったってのもある。おまえの驚いた顔はおもしろいから」
「おもしろい……って、ひどいわ」
 レインは頬を膨らませて、拳を降り上げる。シェイドは笑ってその腕を掴んだ。
「悪い。冗談だ。本当はかわいいって思ってる」
 その言葉に、レインの顔がぱあっと赤くなる。
「な……何言ってるの!? そんなの言われても嬉しくなんかないわよ」
「本気さ。それよりも、これ」
 シェイドは手のひらの上に水色の包装紙に包まれた箱を乗せて、レインの方に差し出した。
「え?」
「クリスマスプレゼントだ。これを渡したくて、2人きりになりたかったんだ。受け取ってくれないか?」
 レインはしばらくぽかりと口を開けて、シェイドと箱を交互に見る。それから、その箱に手を伸ばした。
「あ……ありがとう」
 レインはそれを受け取って、きゅっと両手で包み込んだ。そこから暖かなものが全身に広がってゆくような感じがする。きっとこれが幸せというのだろう。
 どうしても渡したい人へのクリスマスプレゼントならば、こうして2人きりになって渡せばいいのだ。これなら相手のために選んだものを、絶対に相手に渡せるのだから。
「シェイド、私も……」
 ここで、レインは自分が取り返しのきかない大失態を犯したことにようやく気がついた。
 大事な人を思い浮かべながら買った肝心のプレゼントは、さっきのプレゼント交換に出してしまったのだ。
 歌を歌いながら持ち寄ったプレゼントを回して、歌が止まった時に手にしているプレゼントがその人のものになり、決して相手は選べないーーそのことをわかっていたはずなのに、レインはあの美しいバングルを見た瞬間に、それらを完全に忘れ果てていた。
「ああ〜〜っ、私のプレゼント!」
 騒動のこともあって、あの時誰が自分のプレゼントを手にしたのか全く覚えていない。しかし、なんとしてでも探し出し、頭を下げてでも返してもらわなければならない。
 レインはそう思って、パーティー会場に走っていこうとする。それをシェイドは引き留めた。
「ごめんね、シェイド。私ちゃんとシェイドへのプレゼントを用意したの。でも、間違えて、さっきのプレゼント交換に出しちゃったの。シェイドへのプレゼントを必ず見つけて渡すから」
 涙目で訴えるレインに対し、シェイドは笑いを堪えられないように唇を噛み締めて肩を震わせている。
「何よ。わたし必死なんだからね」
「わかってる。でもな、ほら」
 シェイドが右腕を上げると、袖の内側に僅か隠れるようにきらりと覗いたのは、レインが選んだバングルだった。
「え……? ちゃんとシェイドのところに回った?」
「いや、中身を見たアウラーが、きっと俺に渡したかったものだろうって、わざわざ持ってきてくれたんだ。俺もな、俺のためにレインが選んだものだろうなって思ったから、ありがたく受け取っておいた。あ、もちろん、俺がもらったプレゼントと交換だがな。でも、案の定だったな」
 そう言って、シェイドは再び肩を震わせて笑う。
「もう〜自分でもバカだなって思ってるんだから、そんなに笑わないで」
「すまない。あまりにも、レインらしくて。でも、ありがとうな。それだけ俺のことを思って選んでくれたってことだよな」
 レインは他のことが見えなくなるくらいシェイドのことを思っていた自分が恥ずかしくなり、下を向いたままこくりと頷いた。
「それだけ俺の存在が、レインの中で大きいんだってわかって、俺は嬉しいよ。俺だってそうだからな」
 シェイドからのクリスマスプレゼントは、太陽と月がモチーフの可愛らしいピアスだった。シルバーの細い鎖の先についた太陽と月は、レインの動きによって手に手を取って踊っているように揺れる。
 シェイドが丁寧にそれをレインの耳に付けると、それぞれのプレゼントを身につけて、彼らはパーティー会場へと戻っていった。





END
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