一転

□不器用な弱い虫
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ギギィ


「ッ!?」


すぐ下のドアがゆっくりと開く。
こんな時間に屋上に来るとは珍しい。
俺もその珍しいの中の一人だけど!

「誰か来た?よな」

そう小声でぼそぼそと呟きながら身を乗り出す。
ラッキーな事に来た奴は俺の存在に全く気付いておらず、ただただぼーっとしていた。


ぼーっと、

さっきの俺みたいに空を見ていた。


あの人今何、考えてんだろ…

俺と同じように寂しくなったりすんのかな?
泣きそうになったりすんのかな。


てゆーか…
身長でっけー、髪も短けー。
顔だけ見たら失礼だけど男みたいだ。
スカートはいてるから女だろうけども。


何でこんなとこ一人で来たんだよ
何でんな寂しそうな顔してんだよ
俺までなんか悲しくなってくる……


「……?!」



え、ええええ?
俺なんもしてないっすよね母さん。
なんかまじで彼女泣き出しちゃったんすけど!
俺別に何もしてないよな!?うん!




あわあわしながらも目線を彼女から離す。
でもやっぱり少し気になって横目で見てみたり。

彼女からつたい落ちる涙は、とても冷たいものだった。
何かにひどく怒っているのか、そう思わせるとてもとても冷えた目で。


同情などと言う言葉を思い出す事さえできなかった。
そんな、冷たい表情だった。



しばらく空を眺めると、彼女は静かにまた屋上をあとにする。



ああ、しばらくってもう…
オレンジ色に光るおてんとさんももう沈みかけじゃん。



俺、いつまで今の奴に見入っちまってたんだ?


「とりあえず、沈む前に終わらせなきゃ」


終わらせなきゃ、部活も終わる。
その前に、その前に。



ふと、指に目をやると
さっき針をぶっ刺して血がでちゃったところの血がもう乾いていて。
どんだけ深く刺したんだよって思うと自分の事ながらまた笑える。





完成は目の前。
あと少し。


指にぶっ刺したって血ーでたって気にしない。
しるもんか。


ただただ、
嬉しそうに笑う彼女の笑顔だけを考えて。



きっと、喜んでくれる。
喜んでほしい。



ねぇお願いだよ、

笑ってね?

俺はただの弱い虫だから、
君が笑ってくれなきゃきっと……俺が、 逃げちゃうから。
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