短編

□君+私の未来予想図
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お昼が終わり、やっと子供を寝かしつけ、一息つこうと休憩室に向かった。
首をぐるりと回せば、ゴキッと良い音がする。
はあー……可愛いけどやっぱ体の疲労がなんとも。
今度整体行こうかなー。でも健康ランドでもいいな。
そしたらはると一緒に行けるし、あの子も疲れたまってそうだしね。
そんなことを考えながら休憩室のドアを開ける。
教室には、3つ年上の先輩が机で連絡帳を書いていた。


「先輩お疲れさまです」
「お疲れー」


ひょいっと顔を上げた先輩に会釈をする。
机には組ごとに連絡帳が置かれており、記入していないものを手に取る。
あたしも担当のクラスの連絡帳を机に広げた。


「それ誰ちゃん家の?」
「えーっと……美里ちゃんですね」
「美里ちゃんかー。風邪引いてたよね?もう治ってた?」
「はい。今日はもう鼻水もぐずついてなかったし、一緒におままごとしましたよ」


先輩と話しながら連絡帳に今日の出来ごとを記入していく。
保育士のあたし達に、十分な休憩時間などない。
休憩と言われる時間帯も、連絡帳の記入などで時間を割いてしまう。
けど、これはお母さん方と大切な情報交換だからしっかりやらなくては。
家庭ではどうなのか、保育園でどうやって過ごしているのか、お互い知って知らせる。
一人一人の子を把握するのは簡単ではないけど、とても大切な仕事だ。


「お疲れでーす」


疲れきった声がドアからして、振り向いた。
思わず「はる!?」と名前を呼んでしまっていたのは無理もない。
いつも見ている姿とは程遠い、それもはるなら尚更。
朝は柔らかい黄色だったエプロンが、今や黒い泥で大きく汚れている。
二つに縛った髪の先は少し濡れていて、腕まくりされたカレッジトレーナーの端々は泥がついている。
正真正銘、はるはどろんこまみれになっていた。


「静香せんせー名前呼びやめろって言ってんじゃないですか」
「そんなことより、風邪引きますよ!?」
「あらら、はーちゃん先生派手にやったねー」


そうケラケラと笑う先輩を他所目に、はるは顔をしかめながらどろどろになったエプロンを外している。
足が裸足なのを見ると靴も相当汚れたのだろう。
肌が出てる部分は綺麗で、子ども達と外で洗ったのか。
ただほっぺたに泥の筋が入ってるのを彼女は気付いているのだろうか。


「さくら組の子達?」


先輩がそう尋ねれば、はるはロッカーを漁りながら答える。
やんちゃな子達の名前ばかりがつらつらと挙げられていく。


「子供たちが光る泥団子作りたいって言って作っていたら、途中からただの泥遊びに」
「でも楽しいよね泥遊び」
「まあそうですけど、今日はちょっと勘弁してほしかったというか」
「なあに?デートでもあるの?」


更に先輩がニヤニヤとはるを見れば、彼女はいっそう顔をしかめてビニール袋へ衣類を乱暴に入れた。


「着替えがないんですよ。あ、静香せんせー服貸して下さいねー」
「ちょっとはる……じゃなくて、なんで飯嶋先生にあたしが」
「しょうがないじゃないですかーあたしが困ってるんですから早く貸して下さい」


そう言い、シャツを脱ぐとキャミソール一枚になり手を付きつけてくる。
そしてそのまま下のジャージも今にも脱ぎそうだ。


「ま、待った!わかったからそんなポンポンと脱がないで!」


あたしは慌てて立ち上がり、自分のロッカーに向かう。
家でも見慣れてはいるけど、なぜだか職場で脱がれると目線に困るというか。
色気の欠片もないパーカーと、その下着のギャップなんだろうけど。
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