短編

□君+私の未来予想図
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私の職場は小さな巨人で溢れている。


「太一君、おかえりなさい」
「ただいまー!ご飯なにー?」


あたしは自分の手の平に乗る程度のお皿を、床に並べながら「ハンバーグだよ」と笑って答える。
太一君はネクタイを外すふりをして、ピンクのカーペットの上に座り込んだ。
そしてパタパタとやって来たあたしの膝元には娘の早紀ちゃんが、太一君の元には犬の美里ちゃんがはりついた。


「わんわん!わん!」
「ママ、あたしもお腹空いたよー」


あ、言葉足らずだった。
自称犬役の美里ちゃんと、娘役の早紀ちゃんもカーペットに正座をしてまっている。
あたしはお母さん兼、太一君の奥さん役なので「じゃあご飯にしよっか」と早紀ちゃんの頭をなでた。

園児達人気のごっこ遊びは、いつの時代もおままごと。
ただ最近の子達のおままごとは、なんともまあ現実的だ。
ところどころリアルが混じっていたり、苦笑いしてしまうような事を言ったりする。
最近のドラマの影響なのか、園児が主役のアニメのおかげか、おままごともあなどれない。

プラスチックのフォークを手に持ち、これまたプラスチックのハンバーグを食べるふりをする。
少し大袈裟なぐらいに付き合わないと、子ども達はすぐ機嫌を損ねる。
この子たちは、変わりやすい天気みたいなものだと思う。
パワフルで、なにをやらかすかわからない。
それだけ大変で体力も使うけど、可愛いくてしょうがないのだ。

チャイムが鳴り、あたしは手を叩きながら言った。


「はいはーい!みんなお片付けの時間だよー」
「えーまだ途中なのにー」
「続きは明日ねー!ほらーみんなおもちゃカゴにしまって」


片づけている最中で、エプロンの端を引っ張られ振り向く。
太一君が少し赤らめた顔で立っていてあたしは「なあに?」と返事をした。
すると太一君が内緒話するように、耳元でそれほど小さくもない声で言った。


「おれね、静香せんせーのこと大好き」
「先生も太一君大好きだよー」


そう言って頭をなでる。
くすぐったそうに身をよじり、ぎゅーっと抱きしめてあげると、嬉しそうに笑う。
あたしは可愛いなあと思いながら、太一君の手を引いた。
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