短編

□シロツメクサ
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「えーなんで?駄目?」


今にもキスをしそうな距離に、あたしはじりっと下がりたくなるが、彼女の手がそうさせてはくれない。
ちょっとだけ上目づかいで、眉を下げる神崎さん。頬はピンクで唇は桜色。


「だ、駄目。そんな可愛い顔しても、駄目!ここ学校!」
「大丈夫だよ。それに可愛い顔してるのはニーナちゃんの方だよ」
「か、可愛いって、そういう問題じゃない!」
「いーえ、可愛すぎるニーナちゃんが問題」
「かーんーざーきーさーん!」


割と大きな声で遮るあたしを「わかったよー」と残念そうに離れる。


「冗談だって。ごめんね、ニーナちゃん」
「ほんとに?本当に悪いと思ってる?」


訝しげにそう聞くと、彼女は一瞬何か考えるような素振りを見せたあと


「ごめん、今もキスしたいです」


顔の前で手を合わせる彼女は苦笑いしてあたしに謝罪とは言えない言葉を告げる。
その言い方に、表情に、仕草に、きゅーんとするあたしは最早手遅れ。
ここで一つ、彼女に怒れたらいいのだけど、そんなこと出来るわけもなく。
可愛くて、触れたくなって、ふらふらと近づいてしまいそうになるのは実はあたしの方なのかもしれない。

まあ、理性がそうはさせないのだけど。
自分で言うのもなんだけど、平凡代表のあたしにはそれなりの常識は備わっている。
ほうっと息をつく。危なかった。
ジョウロを取りにいこうと倉庫の方へ体を反転させると、神崎さんの手があたしの手に絡んだ。
あたしが戸惑いの声を上げても、そのまま足は校門に向かっている。


「水遣りならもうやったよ。だから、帰ろ」
「え、うそ……ありがとう。ごめんね、なんか」
「謝らないでいいよ。あたしが好きでやったことだし、ニーナちゃんと早く一緒にいたかっただけだから」


ひょいっと頭に何かを乗せられ、手に取った。


「なあにこれ?あ、冠だ」
「時間余ったから作ってみたの」


シロツメクサの冠。幼稚園の頃よく作った記憶がある。
綺麗な円とは言えないけど、控えめな歪さが可愛らしい。


「ニーナちゃん、似合うと思って。ほら、やっぱり。可愛い」
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