短編

□シロツメクサ
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コツコツとチョークの音が教室に響く。
あたしは黒板が白い文字で埋め尽くされていくのをぼんやりと眺めていた。
6人の生徒が黒板の前に並び、ノートを片手に問題をすらすらと解いていく。
さすが計算に自信のある秀才達。平常点もなんなく稼いでいく。
そのお手本のような解答と、さっきまで書きこんでいたあたしのノートを見比べた。
……どこでどう間違ったのか、式が4行目辺りから合っていない。
同じ生き物のはずなのに、なんだか人はみな平等ではなくて、それがちょっと不満だったりする。
あたしの今感じる不平等さは、この自分のバカさ加減。悲しい。
ノートをぱたんと閉じる。もうすぐテストも近いし、家でも勉強しなきゃな。

未だ黒板に書き写している生徒達の中で、いち早く書き終わった人が振り返った。
目が合う。綺麗な笑顔に、えくぼが二つ。
笑ったかと思うとこっちにすたすたと近づいてくる。
彼女の席とは大分離れた場所であるあたしの元に、周りの視線が集まった。


「ニーナちゃん」


リズムがのったように、弾むあたしの呼び名。
頭をなでられ、顔を赤くしないように一呼吸置いてから彼女を見上げる。
恥ずかしさやその他諸々で固まらないよう「どうしたの?」と努めて自然に笑顔を浮かべた。
今日も変わらず、彼女は綺麗。


「今日部会あるんだよね」
「あ、うん。5時までだよ」


5時という単語を聞いた途端、彼女は笑顔を崩して、むうっと腕を組んだ。
「5時までニーナちゃん不足かー」とつまらなさそうに言う。
しかしすぐ、ふっと笑顔に戻る。


「じゃあいつものところで待ってるね」
「わかった。ありがとう神崎さん」


「どーいたしまして」そう言うと、去り際にあたしの頭をもう一撫でした。
ほわん、と神崎さんの香りが残る。あたしは動物みたいに、すんと空気を吸う。
すぐさま隣の友人と、前の席の男子が話しかけてくる。


「ニーナ、最近薫ちゃんと仲良いねー」
「うん。仲良いよ」
「俺も仲良くなりてー。な、薫ちゃんてちなみに今彼氏いんの?」
「恋人いるよ」


あたしは声が上ずらないよう、息をゆっくり吐き出しながら言う。
前の席の男は面白くなさそうに「あっそう」とがっかりしたように言った。
内心ちょっとした焦りと優越感が自分の中で芽生えるのを感じた。
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