短編

□漆さんから20万打祝いに「隠れ家」
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ここは都会から少し外れた図書館。その代わりというのもなんだけど地元の人とは仲が良い。
私はここの司書を務めている。まぁ小さい図書館だからほとんど従業員はいないし、受付が私の定位置だ。

今日も受付で作業していると、後ろのドアの閉まる音がしてガタガタッと司書室から物音が聞こえる。
あぁ来たなと思い、いつもの救急箱を持って司書室の扉を開けた。

そこには所々擦り傷や打撲を負った少年―いや少女がいた。


外ではバタバタとこの子を追い掛けてきた連中がこの子を探しているようだった。




「今日は何が原因?」



無言しか返ってこないのはいつものことで慣れたものだけどちょっとむっとする。


「別に…。」


しばらくして返ってきたと思えばぶっきらぼうにこう言うだけ。


「はぁ、全く。
ほら、上着脱いで、消毒するから」


救急箱を開けて消毒液をとって、彼女のケガを消毒する。

「……ッ」
「我慢して………。

はい、いいよ。」


消毒してから大きめの絆創膏を貼ってやる。



「お茶でも飲む?」

静かに首を振る君。

「ん、じゃぁ私は仕事戻るから」

私は彼女が頷くのを見てから司書室を出た。


これが私の最近の日課である。



彼女に初めて会ったのはなんらいつもと変わらない平日たった。

午前中だったから図書館はがらんとしていておじいちゃんおばあちゃんがちらほらといるくらいで、子供達がいないことで静かな空間だった。
まぁ普通図書館ってそんなもんなんだろうけどね。

そんな静かな空間に似付かわしくない音が司書室の方からしたから不思議に思って、司書室の裏窓を開けて周りを見てみるけど誰もいない。
気のせいかなと思っていると下から聞こえる呻き声。

声を辿って下を見ると1人ぼろぼろな子が壁に寄り掛って座り込んでいた。


「ちょ、君、大丈夫!?」

急いでその子に駆け寄って、身体を見ると切り傷やら擦り傷だらけで痛々しい。
手当てをしようと彼女の腕を掴んで担ぎ上げて司書室のソファに横たわらせた。救急箱を持ってきて、一度ぼろぼろだった上着を脱がせると
お腹に腫れが見えて、シャツを捲ると内出血が広がっていた。

これは痛いな…。


喧嘩かなーと思いつつ、消毒してガーゼを当てて包帯をぐるぐる巻いていく。
時々痛みに呻く声がして心の中でもう少し頑張ってと祈った。

手当てが終わって一息つきながらその子を見下ろす。

見た目は男の子…でもさっき手当てしている時に気付いたけど女の子だった。



手当てが終わってどうしようかなと考えていると呼び鈴が鳴った。

受付に誰かが来たのだろう。
受付に戻るとちびっ子たちが数人並んで待っていて、待たせてごめんねーと声を掛けて貸し出しの作業を始めた。


仕事が終わって司書室を覗くと彼女は見当たらなくて閉めてあったはずのドアの鍵が開いていたから、あぁ出てったのかとなんとなく思った。

誰もいない司書室に夏の終わりを告げる蜩の鳴き声が響いていたのだった。




それから一週間くらいたったある日また音がして、もしかしてと思い裏のドアを開けると彼女がいた。

彼女と目が合って、あぁ猫みたいだなってただ漠然とそう思った。
多分ただ見てるだけなんだろうけど鋭い瞳、暫く視線が外れず沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは意外にも彼女からだった


「この前…」
「ぇ、あぁ…
ここで倒れてたから手当てさせてもらったよ。
気付いたらいなかったから少し驚いたけど」


「………ありがとう、ございました」


それだけ言いたかったのか、そのまま立ち去ろうとする彼女の右腕を掴んだ。

「まって。その左腕、ケガしてるでしょ」


彼女と交わる視線。

まるで懐かない猫みたいなその鋭い瞳が一瞬揺れたように感じた。


それは野良猫が慣れない愛情を感じて逃げ出そうとするようなそんな困惑と戸惑い。

またじっと視線が交差する。私たちの周りだけ時間が動いているような感じがした。


ふっと、少し警戒が解かれたような気がして


「私は白石悠、あなたは?」


しばらく沈黙のあと


「あきら」


そう彼女は呟くようにいった。

それから、彼女はよくここに現れるようになった。
猫が昼寝にでもくるように。


なぜこんなにも怪我するんだろうと思って、ある日思い切ってあの子と同じ学校であろう子達に聞いてみると、


「ぁー…あの子かな?」
「ショートで見た目は男子、目付きの悪い…まぁ篠崎さんくらいよね」
「篠崎…ね。なんであんなに喧嘩屋なの?」


あぁそれは…とこうなった経緯をその2人は話してくれた。


よく学校の通学路でやんちゃしてる連中がいて、みんなも迷惑してるある日、学校の生徒が連中に絡まれていて困っているところをあの子が間に入って助けてくれたと。


その事が発端で向こうも怒りあの子に会う度に喧嘩を仕掛けるようになったのね。


「助けられた子達も篠崎さんの近寄りがたさにお礼も言えないみたいで…、」

「そうそう…でも、篠崎さんって理由のない喧嘩は好まないのか、大体逃げてるらしいんですよ。
本当は彼女相当強いらしいんですけど…」

「ぁ、でもこの前、誰か庇ってリンチ状態だったとかって聞いたよね…」


あぁなるほど。
それが私と会った日か…、確かにあれ以来酷い怪我はしてこないものね…。

まぁ結論からすると、凄く不器用で見た目に反して優しい子なのだろう。
なんだか放っとけない、そう感じた。

それから思わず昔の自分を思い出してしまったのだった。
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