短編

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「当麻。当麻ー。当麻!」


相変わらず、そんな言葉がよく似合う。
必要以上に私の名前を呼び、手には私へのお弁当を持って、笑顔を浮かべて隣にやってくる。
明坂さんとの日々は特に変わりなく過ぎて、付き合ってから今日で約一カ月。
私が先に着くと、たまに明坂さんがくるまで図書館の先生と話すのだが、この間こっそりと「良かったね」と言われた。
付き合っていることは知らないだろうし、友達だと思っているのだろう。
どういう意味で言ったのか、私にはわからない。
けど本当に良かったのだろうか、そう考えない日はない。


「当麻、美味しい?」
「いつもと同じ味」
「じゃあじゃあ、今日のあたしへの気持ちは?」
「……いつもと同じでうざい」


そう言えば、ショックを受けたように眉を下げる。
なんだ今日のあたしへの気持ちって。
しかし、明坂さんへの気持ちを口にしようとしても、最近は口ごもってしまう自分がいた。
少しの間があって出てくるのは、結局は普段言いなれた言葉なのだが。
それを誤魔化すように、私は彼女の甘い玉子焼きを頬張る。


「……美味しかった。ご馳走様」
「うん」


美味しいって一言呟くだけで、すぐそうやって綺麗な顔をくしゃっと崩して笑う。
口の中に残るほんのり甘い玉子焼きも、その顔も、嫌いじゃなくなってきた。
いや、違う。
思い返せば、もともと嫌いではなかったか。


明坂さんは寒いのか、ただくっつきたいのかわからないが体を擦り寄って来る。
抵抗するのも面倒で、私は無言のまま体重を預けられた。
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