短編

□愛しさをこめて
3ページ/6ページ




ポケットに手を入れると、固くて冷たい物が指先に当たる。
これを貰ったときのことは忘れそうもない。
あたしが悪いのに自分のせいだと思い込んで、泣きそうなのに無理して笑って。
はじめちゃんを二度とあんな表情にさせたくない。
胸が締め付けられるとは、あのことだ。
そういう意味でも、これは誓いの指輪みたいなもので。
いつも制服のポケットに入れていることを、あの子は知らない。

やっとキャッチボールを始めた二人を見ながら、ふっと息を吐く。
プリント手でくるくると丸めて、菜月の頭を軽く叩いた。


「った。なにすんの」
「ほら、プリント提出しなきゃなんだから」


菜月にシャーペンを渡すと渋々と言った表情で受け取る。
揺れるポニーテールから、菜月の顔に視線を移す。
あたしと菜月の関係に、はじめちゃんはやきもち妬いたりするのかな?


「夕季、ずっと見つめられるとやりにくいんだけど」
「えー」
「にこにこして誤魔化さない」


多分、ないだろうな。
あたしは自分で出した結論に頷いて、プリントを広げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ