短編

□愛しさをこめて
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「はじめちゃん達だ」
「おーほんとだ。なにやんのあれ、あ、ソフトボールか」


カゴに入っているグローブを取り出しているその姿が、まるで庭に埋めた骨を探すようで可愛い。
お気に入りを見つけたのか、カゴから離れる。
そのままあいちゃんの所に行くかと思いきや、なかなかグローブを取るまでに辿りつけない子に渡してあげていた。


「はじめちゃん優しー!イケメーン!」
「ちょっと菜月、うるさい。けど、ほんとに良い子だなあ」


二人はなにやら話し始めたようで、はじめちゃんは自分のグローブを探そうとしない。
そこに黒髪をなびかせて走り近づく女の子。手にはグローブが二つ。
なかなか来ないはじめちゃんに痺れを切らしたのか、あいちゃんが腕を引っ張ってどんどんと歩いていく。
ここからでも聞こえる「なに!?あーちゃん!?」と戸惑う声に、あいちゃんも何か言い返している。
腕を振り払って背中を向けたはじめちゃんに、あいちゃんが地面から高く飛んだ。
抱きついた重さに耐えられず、二人はその場に崩れ落ちる。
「なにやってんだか」そう笑みを浮かべて菜月が言った。


「いつもと変わらずあの二人はあほだなー」
「あほって、こら。仲良しっていうの」
「いやいやーあほだって。もうね、見た目に反して残念な子達だもん」


そうからからと笑う菜月を見ながら、二人を見おろす。
あいちゃんは咎めるように「ちゃんと支えなよー!」と言い、「無茶言うな!」とはじめちゃんも声を張って言い返している。
あたしも思わず、クスっと笑い声が漏れた。見ていてなんとも微笑ましい。
だけど、たまにあんな二人の関係にやきもちを妬くこともある。
相手はあいちゃんなのだから、仕方がないとは思うのだけど。
人と接するのが苦手で、不器用なはじめちゃんを素のままでいさせてくれるあいちゃん。
あの二人が信頼し合っているという事実が、羨ましい。
あたしはそこまで器が大きい人間でもないから、わかっていてもちょっとだけ胸が疼く。
しかも態度にすぐ出ちゃうし、我ながら幼いなと思う。
付き合う前のこととかを思い出せば、自分の言動に思わず蓋をしたくなるなー……。
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