短編

□クオリアの欠片
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「あ、あの」


……化粧薄い。てか、すっぴん?
けどショートカットがよく似合ってて、顔もまあ薄い感じではあるけど可愛い女性だ。
高嶺の花には届かない、かわりの身近な可愛い子。男が好きそうな顔だ。
パステルイエローの半そでパーカーを着て、下はグレーのスウェット。
……近所かよ。つーかまじで頭いてー……。


「……あー、大丈夫なんで。気にしないで下さい」
「で、でも!」


床に転がったチューハイを手に取ろうとすると、横からも手が伸びてきた。
それより早く手に取り、缶のラベルを見る。
……ダブルレモンストロングのアルコール濃度8%かよ。


「あたしそれ買おうと思ってたので!買います!」
「や、でもそれベコ缶になっちゃったので交換しますね」
「大丈夫です!あたし、それがいいんです!」


勢いよくそう言われ、あたしは少し体を引く。
ガッツリと視線を合わされて、あたしはなぜか背筋がぞくりとした。


「……じゃあ、どうぞ」
「あ!あとその!怪我はないですか!?」
「ないです。ほんと大丈夫なんで」


何だこの客……。
ていうかさっきからあたしの目見すぎじゃないか?
それに若干しつこい。
すると財布からレシートを取りだして何かを書きだした。
そしてあたしにそれを渡しながら


「あたし楠っていいます!それ電話番号とメアドです!もしなにかあったら治療費払うので!あと、すぐに連絡を」
「ほんとにいいんで」


……って、何でこの人顔が真っ赤なんだ。
レシートを見ると楠 絢香の上に「くすのき あやか」とご丁寧に振り仮名が振ってある。
ん?メアドいらなくね?電話番号だけでいいじゃん。
まあ、連絡なんかしないけど。
そう思い、レシートを表にすると明細が並んでいる。
やはりここから近いスーパーのレシートで、肉や野菜、他には……。
……ダブルレモンストロングどんだけ好きなんだよ。
そこに少し殺意をわきながら、ポケットにレシートをねじ込む。

会計を済ましているときも、熱視線にどうしたものかと思った。
凹んだ缶にテープを張り、手渡す。
しかしなかなかそれを受け取ろうとしない。
なんだ、この人……我慢していたけど、ほんとイライラしてきた。


「あの!」
「……はい」


……しつこい、ウザい、まだなにか。
人がいないからいいものを営業妨害って言葉知っているのかこの人は。


「また来ます!」


そうはっきりと、でも頬は赤くてどこか抜けていそうな顔で言う。
あたしは「は?」と言いだしそうになるのをどうにか堪え「……どーも」となんとか絞り出した。
内心、「もうくるな」とか思いつつも、しれっとした顔を装う。
もう用はないだろうと思い、缶をもう一度差し出す。
楠という人は「すいません!」と慌てたようにそれを受け取り、自動ドアにぶつかりそうになりながら店から出て行った。
一度立ち止まってこちらを見ると、ぺこっと頭を下げられてあたしは「なんだかな」と呟いた。
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