短編

□クオリアの欠片
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ロッカーの鏡を見ながら左耳のカフスを外し、制服を取りだす。
規則違反ギリギリの明るめの髪は、ナチュラルブラウンをベースにローライトを入れた前髪やサイドの所々に。
肩まで無造作に伸びた髪を後ろで束ねながら、ロッカーを足で閉める。
時計を見ると時刻は出勤五分前、今日も良い感じだ。
タイムカードを押して店内に移動し、レジにネーム番号を打ち込んだ。


「有先輩ー」
「おはよー平出」
「今日もキマってますね、そして良い匂いです」


擦り寄ってくる後輩を足蹴にし、「今日もひど〜い」という言葉も無視し店内を見渡す。
木曜日だから客足はなく、一人もいない状態だ。
まあ21時だし……というかそれは仕方ないにしても、ついでに言えば店長もいない。
けど休憩室にはいなかったし……また倉庫で寝てんのかな?
平出に尋ねると「昨日飲み会だったらしくて倉庫で死んでます」と抑揚のない声で答えた。
ああ気の毒に、こいつ一人で店回してたのか……。
混まない日だからって……あとで店長に文句言ってやんなきゃ。


「先輩今日遅出ですね」
「大学の友達と約束あって。で、今日は2時まで」
「うへー考えるだけでも眠い」


そう顔をしかめた後輩に、「慣れだよ慣れ」と答えるともっと顔をしかめられた。
自動ドアの開く音がし続いて入店音が店内に響く。


「いらっしゃいませー」


ここでバイトを始めて早1年。
入店音と同時の挨拶はもう反射的にしてしまっていた。
そして自分で言うのもなんだが仕事はもう従業員並に出来る。
深夜帯はこうして時給もあがるし、昼時や夕方以外はそこまで忙しくないからこのバイトは好きだ。
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