短編

□ラヴストック
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 あたしの机の上で寝ている彼女を眺めます。邪魔だなと思いながらも学校で寝ているのは珍しいからかなかなか起こす気にはなりません。それ以前に、平和だからというのもあるのですが。

「紗衣ー! 今日放課後さー駅前の」
「しーっ」

 目をぱちくりさせてゆっくりと近づいてくるのは、あたしの少ない友人の純ちゃんです。慎重すぎるほど、そろそろとあたしの隣に移動し、本田さんの顔をのぞき込んでいます。

「梨花が寝てるー」

 よしよしと純ちゃんが本田さんの頭をなでても起きる気配がありません。整った顔がぴくっとわずかに動いただけで、規則正しく寝息を立てています。じーっと純ちゃんとそれを見守っていると、ふいに背中から気配を感じました。

「さーえちゃん! 今日も可愛い後ろ姿だね!」
「ひゃっ!? 都坂さん!?」

 後ろから抱きしめられたのに驚き、がたっと大きな音を立ててしまいました。本田さんの眉間に一瞬皺が寄りましたが、それでも起きないらしく。この二人が来たということは、もう時間の問題なのでしょうが。

「え、なにこの子寝てんの? レアだねこれはー梨花ちゃんの寝顔」

 あたしに腕を回したままそう言うと、携帯を取りだし本田さんの顔を撮影しだしました。
「怒りませんかね……?」と聞くと、「大丈夫だよー」とにこやかに言われます。
「可愛いなー」と都坂さんが本田さんを撫でました。
 なんだろう、今日は本田さんが猫みたいな扱いをされています。

「写メいる?」
「いる!」
「じゅ、純ちゃんまで」
「じゃー紗衣ちゃんはいらない?」
「えっ」

 言葉に詰まりながらもどうしようと考えていたら、都坂さんがさっきの写真を表示させました。
「可愛い」思わずそう口に出すと、都坂さんが「送っとくねー」とほがらかに笑いました。
 都坂さんと仲良くなれたのも本田さんのおかげです。最初は派手目で可愛い人たちは苦手だったけど、話してみたら良い人で、見た目も可愛いくて中身も良い性格だとはなんと素晴らしい人なんでしょうか。面白いこともなにも言えないあたしに、都坂さんはよく話かけてくれますし、遊びにも誘ってくれます。
 本田さんはよく都坂さんを鬱陶しそうにしているけど、本当に仲が良いのは見ててわかります。
 よくしてくれて「ありがとうございます」とつい言ってしまうけど、都坂さんは「なにが?」とゆるく笑います。本田さんと一緒だ、とたまに思い、この人も、好意を当たり前のようにくれるのです。
 純ちゃんが思い出したように「紗衣ー」とあたしの名前を呼びました。

「駅前に雑貨屋さんが新しく出来たじゃんか、そこ行こーよ! ってさっき言いたかったのを思い出した!」
「あ、うん! いいね」
「あっこ可愛いよね。あたしも気になってたんだー」
「残念でしたー玲奈には言ってませーん」
「えー。なにこのちっこいの感じ悪いなー」
「なにー!? 牛乳のくせに!」
「つるぺた」
「つ!?」
「最近あたしが紗衣ちゃんと仲良いからって嫉妬してるんでしょーかっわいいーなーもう」

 まったりとわざと強調した口調で言われた純ちゃんは拳を振り上げて口を大きく開けました。
「この馬鹿玲奈ー!」と言えば「馬鹿はそっちでしょー」と笑う都坂さん。なんだかんだ、この二人も仲良しさんで、見ているとつい笑ってしまいます。
 
「みんなで行こうよ? ね?」
「紗衣ちゃんわかってるー」
「あ、こら! 紗衣に触るなー!」

 純ちゃんがあたしに手を伸ばしました。そのとき、むくりと本田さんが顔をあげました。

「……うるさい」
「あ、梨花おはよー」

 頭をかきながら不機嫌そうに「なにやってんの」と本田さんが言います。あたしに抱きついたままの都坂さんがへらへらと笑い、純ちゃんは手を本田さんに掴まれて身動きがとれないでいました。

「可愛い梨花ちゃんの寝顔をみんなで観察してたの」
「は?」

 眠そうな顔で都坂さんを見ます。純ちゃんがじたばた暴れても本田さんは気にもせずにあくびを堪えるようにしました。まるで外国のアニメの猫と鼠のようです。でもこれじゃ、逆なのだけど。
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