お題小説

□月
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(千翔×千早)


(1)


バカでかい音で携帯から音楽が流れる。
窓からは日の光が入ってきて目を細めた。
朝かと認識すると、音が聞こえる方にさぐりさぐり手を伸ばす。


「……うるさ」


軽快なビートや張りのある声も、今はいらついて仕方がない。
それは隣で寝言がうるさいやつにも。
あたしの姉はというと、隣で寝転がり眉間にしわを寄せて唸っている。
二人で寝転がるには決して広いとは言えないベッドの上で、あたしの体の上に足を乗せながら広々と寝ていた。
鳴りやまない携帯を耳元に持っていくと、嫌々というように首を振る。
しつこく耳元に近づけると、あたしの手ごと携帯を叩き落した。


「痛ってーなおい……」


寝起きだからか自分の声は低く、掠れた。
床に転がった携帯のアラームを止め、あたしとそっくりなその顔に放り投げる。
鈍い音がして、痛そうに歪める顔に少し満足した。
うっすらと目を開けた彼女は、おでこに手を当てながら


「痛ったー……ふざけんなー」


と、舌ったらずだけどあたしに良く似た掠れた声で言った。


「千早、あんたがふざけんな」
「はー?あたしなんにもしてないじゃーん……」
「携帯うるさい」
「しょーがないじゃんアラームなんだから……」


そう言いながら一度起き上がって、あたしの膝の上に頭を乗せて毛布をたぐり寄せている。
こいつまだ寝る気か。
横に転がっている枕を手に掴み、そのまま千早の頭に向かって振り落とす。


「起きろ」
「……枕邪魔。つーか今日遅刻する、眠い」
「そんなこといって丸一日寝るんでしょ」
「あは。バレてるー」


悪びれもなく笑うこいつに、呆れなんかもうとっくの昔に忘れた。
こいつとこのままぐだぐだとしていたら完全に遅刻する。
そう思い、立ち上がろうとしたらぐいっと腕を引っ張られた。
力強いそれに、冷たい視線を投げる。


「千翔ー。一緒に寝よーよ」


無視して腕を振り払おうとするが、そうはさせまいと更に強く引っ張り込まれる。
思わず片手を床に着くと、意地悪そうに千早が笑う。


「……離して」
「やだ」


睨みつけると楽しそうに笑うもんだから、いらついて仕方がない。


「どうして千翔は昨日あたしの事離してくれなかったくせにそういうこと言えるのかなー?」


ほらほらと、そう言いたげな笑顔で服をずらすと肩を見せつけてくる。
おまけに腕までめくって赤くなった個所を指さしながら楽しげに言う。


「今日体育あるって言ったのにも関わらず手にも肩にも噛み跡いっぱいあるよね。どうすんのこれ」
「……知らない」
「嫌だって言ったのになあ。あたし愛されちゃって」
「愛してないっつーの。千早が煽ったから乗ってあげただけ」


「ふーん」と気にする様子もなく、しげしげと腕を観察している。
うっすらとしたものから、くっきりと残った歯型や赤い跡。
世間でこれはDVというんだろうか。
その割にあたしは罪悪感なんかないし、いつも千早は喜んでいるように見える。


「2現からなんだよね、体育」
「だからなに」


両手があたしの顔を包み引っ張り込まれる。
おでこをくっつけた状態で、彼女の息がかかった。


「もう1ラウンドしてお昼から学校行こ?」


そう唇を舐めたあと、猟奇的な笑みを浮かべる。
思わずぎくりとした。
無理矢理立ち上がり「死ね。学校行くよ」と服を脱ぐと、まさかの腕に赤い噛み跡なんかを見つけてしまった。
自分の制服に手を通し、千早にYシャツを投げつける。
ぶーぶー文句を垂れる自分と似たあいつを視界の片隅に入れながら、朝から嫌でも目が覚める、そう思いため息をついた。






(1) 月曜日の目覚まし時計

  

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