お題小説
□土
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半径50センチメートル(恵×つばさ)
(6)
テレビの威力は絶大だ。
「ねーこんなに食べるの?」
めぐが袋に入った箱を慎重に抱える。
街灯に照らされた彼女の格好は下はジャージに上はパンダのTシャツというラフな格好だ。
そういうあたしも似たような格好なわけなんだけど。
人はこれをザ・コンビニスタイルという。
「食べるよ。だから買ったんじゃん」
「太るよ?」
「ケーキだから太らないもん」
「いやいや。ケーキだから太るんでしょ」
それを言わないでほしい。
あたしの部屋でテレビを見ていたらコンビニスイーツ特集をやっていた。
もちろんいつも通りめぐはあたしの隣にいて、漫画を片手に「コーヒーゼリーなら……」と真剣な顔で見ていたけど。
甘いものが大好きなあたしとしては目がないわけで、地デジチューナーがちょこんと乗った20インチのテレビ画面に釘付けだった。
いても立ってもいられなくなったあたしは、鞄に放り込んであった財布とぽけっした顔のめぐの手を取って部屋を出ていた。
向かった先は家から20分程度のコンビニ。
ほんとは家のすぐ近くにエイトイレブンがあるのだけれど、あたしはどうしてもロンソンのプレミアシリーズが食べたかったのだ。
あと大好きなミルクレープも買ったし、幸せな帰り道の途中というわけで。
だから……太るを連呼しないでほしい。
ちなみに今が夜の10時過ぎだからってそれがなにか問題でも……あるのは自分が一番わかってる。
「明日の晩ご飯減らすからへーき」
「おばさんのご飯美味しいのにもったいない。あたし代わりに食べてあげよっか?」
そうへらへら笑う彼女にムカついて足を蹴ろうとする。
が、一歩後ろに下がられ避けられた。
仕方なしに、めぐの斜め後ろを歩くが彼女はすぐ速度を落として隣に並んだ。
空いたほうの手を絡ませてヘラっとした笑みを向けてくる。
このわかっててやってるところ、たまに好きじゃない。
「まあ太ってもいいよ」
「……良くないよ」
「お相撲さんみたいになったら困るけど」
「馬鹿!」
自分の頬が膨らむのがわかる。
手を離して「傷ついた!めぐのバカ!」っていうアピールをしたいけど、夜道がそうさせてはくれない。
車や人通りの少ない道には、ぽつんと自販機と街灯の明かりだけが点々と続いていた。
あたしは恐がりで、夜道も得意ではない。
めぐがいるからこうして平気だけど、夜は一人で外に出れない。
あの電柱の陰からなにか出てきたら……そう考えただけでこの手を離すことなんか到底無理だ。
「めぐが困るなら太らない」
「ん?つばさ太りたいの?でも、痩せてるからもうちょっと太っても大丈夫だよー」
「ちっがう!……あたしがお相撲さんみたいになったらどうするの」
なにこの質問。
あたしのが馬鹿みたいじゃん……。
「んー。相撲でもとる?」
だけどもっとあほらしい回答が返ってきて、へらへらと笑う彼女にため息をつく。
足元にある小石を蹴りながら、めぐの横顔をじとーっと眺めた。
無言の訴えが通じたのか、こっちを向くと
「大丈ー夫。どんなつばさでも、あたしはずっと隣にいるよ」
とか恥ずかしいような嬉しいような言葉をくれるもんだから、あたしが赤くなるのは必至なわけで。
「今までもそうだったし、これからもそう」
おまけに止めまでさしてくれるわけで。
あたしは天然だけど欲しい言葉をくれる幼馴染の事を確信犯だと思っている。
「だって一人じゃコンビニに行けない彼女をほっとけないでしょ」
「いいの!めぐがいるんだから」
繋いでいた手を離して、腕にぎゅっとしがみつく。
早く家に帰りたくなってきた。
甘いケーキをめぐと二人で食べたい。
めぐは甘いの苦手だからコーヒーゼリーだけど、あたしがいれば甘くなるから問題はないよね。
「これからも、あたしのことほっとかないでね?」
「そりゃあもちろん」
「あたしもずっとここにいるから」
めぐの返事は唇に落とされたキスで。
へらっとした笑みを浮かべた彼女は「早く帰ろっか」と同じことを思っていたのだった。
(6) 土曜日の深夜デザート