お題小説
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赤い糸を繋いでから(柚稀×未央)
(4)
藍色のランドセルを背負ったまま、家の前を通り過ぎる。
向かう先はそう、大好きな人がいる所。
真っすぐ真っすぐ北地家に向かう。
玄関のピンポン(っていう音がするボタン)を押そうと背伸びするが届かない。
あきらめて庭の方に回ると縁側に誰か座っていた。
「未央ちゃん!みーおちゃーん!」
ヘッドホンをつけて雑誌を読んでいる未央ちゃんに駆け寄る。
あたしに気付かないのか無反応だ。
……目瞑ってる。
こっくりこっくり首が動いてるけど寝てるのかな?
雑誌の上ごと未央ちゃんの膝の上に飛び込む。
「未央ちゃん!」
「!びっくりしたー!ゆずおかえり」
雑誌を横に置いてくれた未央ちゃんの膝の上に座った。
あたしのお腹に手が回り、未央ちゃんにもたれかかる。
「学校あったんだ?」
「うん!授業参観でママ来たよー!」
土曜日なのにお疲れだーとあたしの頭をなでた。
あくびをしながら眠そうに目をこする。
やっぱり寝てたんだと思うと笑ってしまう。
未央ちゃんはとろんとした目をしながらヘッドホンを外した。
「なに聴いてたのー?」
首にかけられたヘッドホンを指さして尋ねると、あたしの知らない曲名が返ってきた。
未央ちゃんがちょっとだけ歌ってくれたけど、よくわからなかった。
いっこだけわかるのは、日本語じゃないことぐらいで。
「あれがいー!あれー!」
よくテレビで流れてる曲をサビだけ歌う。
ママが見るドラマに使われてたあの曲!可愛いアイドルが出てるあれ!
「むー…多分これかな」
未央ちゃんはカチカチとアイポッドをいじり、ヘッドホンをあたしの耳に被せてくれた。
しかし、ガンガン聞こえてくる爆音に驚いて、つけてもらったばかりなのに急いで外す。
「あれ?曲違った?」
「違うよ!じゃなくて、合ってるけど音が大きいよ!」
「えー?普通じゃないかなー」
首をかしげる未央ちゃん。
未央ちゃんの普通は人と大分違うのを自覚してほしい……。
「これじゃあ未央ちゃんの声聞こえないし、お話も出来ないじゃん」
「そりゃそうだ」
へらへら笑う未央ちゃんを不満気に見る。
機嫌直しかのように髪を手ですいてくるけど、まだ頬は膨れたままだ。
膨れた頬を指でぷにぷにと触りながら未央ちゃんは
「じゃあこれは?」
雨戸の近くに置いてあった未央ちゃんのカバンから何やらごそごそと取り出す。
取り出されたのは白いイヤホン。
それをヘッドホンが挿さっていた場所に挿すと、片方をあたしの耳にはめた。
「ひゃっ!くすぐったいよー!!」
「ふむ。柚稀は耳が弱いのかー」
「耳ー?」
こっちの話だよーと、もう片方を自分の耳にはめながら笑う。
よく耳にする音楽が流れてきた。
音量はさっきより小さくなっていた。
「半分こだね!」
嬉しくて笑みがこぼれる。
半分こは好きだ。
1つより、未央ちゃんとの半分このがいい。
量は少ないし、使いづらいかもだけど、嬉しさは倍以上だから。
それに、さりげない優しさがある。
温かいのだ。
この人の優しさは温かい。
未央ちゃんの腕に擦り寄ると甘い匂いがする。
見上げたあたしに微笑むが、優しく頭を前に向かされた。
あたしの頭の上に顎を乗せた未央ちゃんは、温かいなーと眠そうに呟いた。
きゅっと抱きしめられて頬を寄せられる。
どきどきしているあたしを余所に、寝息が聞こえてきてがっかりした。
未央ちゃんのバカ。
起きていないか横目で確認する。
ちょっとだけ顔をずらして頬にキスしたのは誰にも内緒。
(4) ヘッドホンより、イヤホンがいい(片方貸してくださいな)