お題小説

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君の未来予想図から(静香×はる)


(5)


戦には準備万全でいくべきだ。

ナチュラルメイクに甘い香水。
白いワンピースに柔らかいフリンジのベストを羽織る。
仕上げにベビーピンクのグロスを重ね塗り。
今日のあたしはいつもよりちょっと可愛い。

待ち合わせは駅から徒歩5分ぐらいにある個室の居酒屋。
あえての個室というチョイスが素敵!
お洒落な所間違いなし、料理も美味しいに決まってる!
緩む頬を押えながら待ち合わせ場所が見えてきた。
店前にいる人物に手を振りながら駆け寄る。



「待たせちゃいました?」
「や、大丈夫。今きた所だから」



良かったーと安心していると




「なにが良かったんですかー」




普段から聞き慣れた不機嫌そうな声が聞こえる。
先輩の影から気だるげに顔だけ覗かせていた。




「は、はる!?どうしてここに!?」



今日は用があるからご飯作れないって言ってあったのに……なぜ!?
え、しかもなんか服装可愛いし、なにそのガーリーコーデは。
メイクはいつも通りナチュラルだけど、服装に合っていて十分可愛い。




「一人ドタキャンしちゃってさーあたしが誘ったんだ!」



先輩がはるの肩に手をかける。
この子可愛いからちょっと苦渋の決断だったんだけどねと笑っている。




「合コンとか興味ないけど、タダ飯って言うから」
「えー!?でもそれにしては気合い入って」



ってえー?無視して先にお店入っていくんだけどあの子!
なに、なんであんなに機嫌悪いの?
タダ飯だからはるの場合喜ぶんじゃないの!?


職場の先輩に誘われた合コン。
まさかそこにはるがいるとは思ってもみなかった。
どうしよう、身内がいるみたいでなんだか恥ずかしい。
それに目線が冷たかったなー……。
あたしまた知らないうちに怒らせちゃったか…….



先輩が後ろで、はーちゃん先生やる気だねえと楽しそうに背中を押してくる。
そーですねーあははは、と笑ってはみるが、はるが気になって仕方がない。
とりあえず時間も時間だ、彼女の背中を追いかけて店に入った。








そして始まった合コン。






「こんばんは」




……どうしよう、今回の合コン。



あたりだ。






大当たりだ!!!!




今日の合コンのお相手は都内の若手サラリーマン。
しかも先輩が言うに将来有望なエリートらしい。
そして目の前に座るその人。





「いいよね。子ども可愛いよねー。俺も好き」



はにかんで笑うその顔が可愛い
髪型は少し猫っ毛かな。
服装はまあゆるい感じだけど、だらしなくは見えない。
全体的な感じが雰囲気にあっている。

好きなタイプだと思う。
目元なんか特に好みなんだけどなあ。
だけどなんだろ、誰かに似てる気がする。



「はるちゃん若いよね。いくつ?」
「22ですー」


さっきから隣で唐揚げを口に運んでいたはるは愛想よく答えた。
また肉しか食べてない、とは思いつつも見なかったことにする。
先輩たちを見ると相手に分け隔てなく話している。
1人に集中していないということは……どうやらまだ品定め中っぽい。

ならあたしが今狙ってるアピールしても大丈夫だよね?
しかし



「さっきから唐揚げばっか食べてるねー。好きなの?」
「大好きですー」
「じゃあ俺のもあげるー」



目の前のタイプな男性とはるの正面に座る男性はどうやらはる狙いだ。
目線でわかる、さっきからずっとチラチラ見ては話かけているんだもん。
はるは興味ないとか言ってた割に笑顔で対応している。
言葉はいつもみたいにやる気なさ気に聞こえるけど……相手は気付いていないだろう。




「レモンとって下さーい」
「はい!あ、焼き鳥もあるけどいる?」
「うん。ありがとー」



……というかなんであたしには不機嫌なのに男には笑顔振りまいてんのよ!
あたしにはそんな顔しないじゃんか!!
唐揚げもらって喜んでるけど、あたしだっていつも作ってあげてるのに……。
なんなのこの差。
はるも興味ないとか言っても所詮女なんだ!


って、あー、なんではるに対してイラつきが……。
元はと言えば、はるがあたしに怒っているのに。
年下の先輩の扱いは難しい。
いや、はるだから難しいのかな。
どうしたら機嫌直るのかとか、笑ってくれるのかとか、気付いたらそんなことばかり考えている。
彼氏を作るチャンスだとか思う暇もない……。

ほんとどうしよ……と思いながら巨峰サワーを飲みこむ。



「はるちゃんて普段何食べてるの?」
「えー?静香さんのご飯」



不意に自分の名前を呼ばれて隣を見る。
はるは今度は焼き鳥に手を伸ばしていた。
この人と指を差されたあたしは、はるに話題を振られたことにびっくりした。



「え?一緒に住んでるの?」
「あ、寮が一緒で!」
「そーなんだ。静香さん料理上手そうだよね。羨ましいな」



そんなことないです、と慌てて言うとにっこりと微笑まれた。
可愛い、と一言だけ言われて顔が赤くなる。
この人言いなれてる感じはするけど、嬉しくなるのは仕方がない。


「得意料理は?」
「え、ハンバーグとか肉じゃが……」
「うわー、その2つ凄い好き!今度俺にも作って下さい」



はにかみやばい!!!!
はるにありがとうと言いたくなった。
けど彼女はこっちを見向きもせずに、男と焼き鳥にビールを飲んでいる。
なんだよ、こっち向けバカと視線を送っても無視だ。
はにかみ君はそれに気付かずあたしに料理の話題を振ってきた。

諦めて彼に向き直る。
はるのおかげだ、あんな態度でもちょっとは感謝しよう。
彼に微笑みかけながらそう思った。



















――そう思ったのに。







「しーずかさん、もー無理ー。気持ち悪い」
「ちょ、吐かないでね!?もーしっかりしてよ先輩のくせに!!」
「あたし年下ですもん。おえっ」
「はるー!?頼むから耐えて!!」




感謝してから30分後。
その恩人はあたしに支えられて寮に帰ってきた。



「ほら!水飲んで!!」



ベッドに倒れ込んだ彼女に水を渡す。
こくこくと喉を上下させて一気に飲みきった。
口から一筋水が垂れ、紅潮した頬をしてぼーっとあたしを見ている。
……なんかエロい。
普段なら抱きついてる可愛さだ。
でも今はそんなことしたらゲロまみれになるかもしれない。



「落ち着いた?もーなんであんなに飲んだかな」



呆れながらそう言い放つ。

あたしが例のはにかみ君と良い感じになってきたころ。
そのときはるは、周りに合わせて結構の量のお酒を飲んでいた。
そんなにお酒に強いわけでもない彼女は案の定酔っぱらってしまった。
おまけに肉の食べ過ぎでのダブルパンチ。
気持ち悪さは相当なものだったろう。
しかしそれは一切顔に出ていなかった。
ではなぜ、酔っぱらっているわかったかと言うと



「静香さーん」




はるがあたしの肩にもたれかかって笑ったからだ。
……はるは酔っ払ったときだけあたしに笑顔を向ける。
本人も自覚しているのか家では飲まない。
あたしはたまに飲ませようと頑張ったりもしたけど……まあいつもどうり無視されてる。

はるの笑顔は可愛い。
酒の場なのも忘れそうになったぐらいだ。
皮肉な話、それで酔っぱらっているとわかった。




「うるさーい。てか付いてこなくてもよかったのに」
「いや家一緒じゃん」
「違う。お持ち帰りされれば良かったのに」



バカ、とはるの頭を軽く叩く。
あたしがちょっと怒ったのを察したのか黙ってしまった。
はるの手からコップを引き抜き、もう一杯水を汲んで薬と一緒に手渡す。



「ほら一応薬」



ベッドの端に座ると目が合った。
彼女は薬と水を一気に飲み干すと、空のコップあたしに押し付ける。



「なんで合コン行くって言わなかったんですか」



なにいきなり。
頬が赤く、ぼーっとしている表情はやはり読めない。
というか……



「あたし言わなかったっけ?」
「聞いてないです」



そして沈黙。
……朝なんて言ったんだっけ?
確か夜は用があるからご飯適当に食べといてね、って言ったような。


……え、もしかして不機嫌だった原因てこれ?
あたしが合コン行ったから?
もしそうだったら、かなり可愛いんだけど……!
寂しかったのかな、それともご飯の心配なのかな。


とろーんとしたはるの目を見る。
あれ、この目元どこかで



「適当に食べといてって言われても、家にはカップラーメンないし。誰かさんのせいで」
「……自分で作ればよかったでしょ」
「めんどくさい」



ほんとにめんどくさそうに言う。
しかも後者のご飯のことだったしさ。
やっぱりツンツンしてるともったいない。



「ていうかあんな面倒なものよく行きますねー」
「だって誘われたから」
「でれでれしてたくせに」
「はるだって結局は参加して終始笑顔だったじゃん!」




彼女はふてくされさように、誰のせいだよと呟く。




「へらへらしてる男のなにがいいんだか」




はにかむように顔真似をしている。
ムカつく。
もー知らない!と言いかけたとき、彼女のはにかんだ顔を見て気付いた。




「大体あれ絶対彼女持ちー……って、なに?」




すぐさま怪訝そうな顔をした彼女。
顔をぐっと近付けてみる。

やっぱりそうだ。
はる、あのはにかみ君に目元が似てる!
あ、でもこの場合はにかみ君がはるに似てたのか。

ということは……。

……はるに似たはにかみ君にときめいていたと。
……しかもタイプだと思ったと。
顔が一気に熱くなる。




「顔近い」




迷惑そうに彼女が言う。
慌てて離れようとすると、手を急に掴まれた。
冷たくて細い指にドキッとする。



「あたしがなんで合コンに行ったかわかりますか?」
「タダ飯!」




即答するあたしに、冷たい視線を投げつける。
……だってさっきそう言ったじゃん!
違うの?と途方にくれた目で見ても、はるはもう無視をすると決め込んだように見えた。
服の袖を引っ張っても反応してくれない。
ワンピースの裾をめくると腕を蹴られた。
しつこいなあ自分と思いながら、足にそのまま抱きつく。



「明日ははるが食べたいもの何でも作るよ?」



ぴくっと僅かに反応する。
やっと無表情な顔がこっちを向く。
予想通りの反応に思わず頬が緩んだ。




「なにがいい?」


「……お茶漬け」
「そんなの自分で作れるじゃん!」



今度はあたしがしかめっ面する番。
カップラーメよりお手頃じゃない!
むーっとした顔をしてはるを見る。

肉じゃがやハンバーグはいつでも食べれるからいいんですよーと、彼女はめんどくさそうに言ったのだった。





(5) あまりソレに興味は無いのだけども(あなたに興味は有るのですよ)

 

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