お題小説

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半径50センチメートルから(恵×つばさ)


(2)


お隣さんとプチ旅行。
それは特に珍しいことでもなく、ああまたかと思う程度だ。
そして可愛い可愛い我が子を当然のように留守番させていく。
可愛い子には旅をさせろっていう言葉もあるというのに。
ん?あれって苦労させなさいの意味だっけ?


「一緒に連れて行くっていう選択肢はないわけ!」


そんなことを考えているとすぐ横にいる例のお隣さんの可愛い一人娘、つばさは野菜コーナーで買い物カゴを振り回しながら声を上げていた。


「まあお寺巡りだしさ、うちら付いてってもつまんないじゃん」


不景気だから色んなお寺を吉井さん夫婦と回るんだとにこやかな笑みで父さんが言っていた。
あやかれるといいねーと笑いあってた家族団欒はつい最近。
景気回復を祈りに行った両親達のために、あたし達は休日の2日間家を守ることになった。


「そうだけどさー!あたしもめぐと旅行行きたいよ!」
「あたしも行きたいけどなあ」


お金ないしねーと言いながら、つばさの振り回すカゴを他のお客さんの迷惑になる前に取り上げ丸々したトマトを入れた。
サラダにはやはりトマトはかかせないよねー。
レタスに手を伸ばすと


「レタスは家にあった」


とすかさずつばさが答える。
腰に抱きついてくる幼馴染に相槌を打ちながら精肉コーナーに向かった。


「でもさーいいじゃん、あたしは嬉しいよ?あ、つばさ何食べたいんだっけ」
「何が嬉しいのー」


ハンバーグがいいなあと笑顔を向けてくる。
じゃあ付け合わせはポテトサラダがいいかな。
確かじゃがいもは家にあったよね。



「つばさと二人きりーって」


だって一日中一緒だしね、と付け足す。
あいびき肉を片手に掲げながらどれが新鮮か見分けようとするが、どれがいいのかよくわからない。
とりあえず作られた時間が早いものをカゴに入れた。


「あー、ご飯もお風呂もベッドでも一緒だし?」


…にやにやしながら聞いてくる幼馴染の顔には、純粋じゃないものも含まれている気がする。
すぐ横を幼稚園児ぐらいの子が通り過ぎ、そういえばこの頃からつばさはもう盛っていたなとなんとなくふっと息が漏れた。


「なにその顔」
「痛いって!つばさ痛いってば」


腕をつねられ軽くぺしっと頭を叩く。
ついでにチーズも入れようと思いつきカゴに入れた。
チーズインハンバーグーとへらへら笑うあたしに、むーっとした顔を向けてくる。


「騙されないからね!今遠い目してた!」
「えー?そんなことないよ?」


昔を懐かしんでいただけだもの…多分遠い目はしていない、はず。
あたしのこの笑顔が見えないのかなー。
ついでに言うとあたしが見たいのはつばさの拗ねた顔じゃなくて、


「めぐこの前も学校であたしが」
「誘い受け」




小さく呟いた言葉は効果てきめん。
さ!?と言いかけ耳まで赤くなったその表情は、今も昔も相変わらず。
そうそうその顔、大好きなんだ。
会計に向かおうとして、固まっているつばさにいつものへらっとした笑みを向ける。









「ベッドの上でにゃんにゃにゃーん」




手を繋ごうとしたら彼女に本気の蹴りを喰らった。







(2) 一緒にごはん作ろう!(どっちの家に行こうか?)
 

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