お題小説

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羊の皮を被った意気地なしから(志保×陽奈)


(1)



「わ!陽奈ちゃんどうしたの!?」


志保さんがびっくりした顔をしている。
無理もない、数十分前に家を出て行ったあたしがびしょ濡れで家に帰ってきたのだから。


「転んだ」


いつものように寝過して、遅刻ぎりぎりだったあたしは走って学校に向かっていた。
自分で言うのも悲しいけど小さいし身軽だから足には自身があったりする。
だからなんとか間に合うと思った。
が、


「昨日の雪で道がぬかるんでて、そのままべしゃーって…」
「とりあえず服!制服脱いで!!って、あー!膝すりむいてる!陽奈ちゃん大丈夫!?」


志保さんがなんで泣きそうな顔してるかなー。
おろおろしている彼女に制服を脱がされ洗濯用のカゴに入れられ持っていかれる。
ごめんねと言いながらとりあえず家でいつも着る大きめのパーカーに腕を通し、救急箱をテーブルの下から取り出した。
消毒液を自分でかけようとしたら脱衣所から帰ってきた志保さんに取られてしまった。


「あたしがやる!」
「えー、いいけど。痛くしないでね、って!!う―…っ」
「わっごめんね!ごめんね陽奈ちゃん!」


だから、なんで志保さんが泣きそうなんだってばー!
あー、傷口で今消毒液と菌の戦いが始まって…これはひどい戦場だ…。
痛いし寒いし、お姉ちゃんという名の彼女は半泣きだし。
手際よくガーゼをテープで貼っていく彼女をみて、綺麗な手ーとじーっとみてしまう。


「できたー!傷残らなきゃいいけど…」
「大丈夫だよーこのぐらい。志保さんありがとう」


どーしたしましてーと志保さんがギューと抱きついて頬をすり寄せてくる。
ほんとに甘えたさんだなと思わず苦笑いしてしまう。
泣き虫だし、すきあらばくっついてくるし、キス魔だし。
最初密かにキスされたときはびっくりしたなー…嫌じゃなかったけど、なんか懐かしい。
へたれなくせにキスうまいしね、妹はびっくりでしたよ。


「なに笑ってるのー?」
「あったかーいって」


ほんとにー?と笑って微笑む志保さんはとても可愛い。
さっきまであたしのことで半泣きだったのになあ。
お母さんは志保さんとあたしを見比べて、たまにどっちが上かわからないわねとよく笑う。




「あ。制服1時間あれば乾くけど学校お昼からいく?」
「んー…。志保さん大学は?」
「あたしは今日授業ないんだー」


いいだろーと頭をなでられる。

いいなあと呟き唇を尖らせたあたしは彼女の膝の上にダイブする。
そのままあお向けになると、ちゅっとおでこにキスをされた。
可愛いと言いながら優しく微笑むその顔は…ずるいよ。


「あたし車で送っててあげるからね」
「いい」
「え?」


起き上がって志保さんの腕の中に入る。
こういうときだけ小さくて良かったなあと何気なく思う。


「家にいる」
「え、授業は?」
「一日ぐらい問題なし!」
「でも」
「それに今日はもう濡れて寒いから家にいる」
「服乾くよ?それに車だよ?」
「まだ体は冷たいし、家から車までの距離もとても寒くて耐えられないよ」


…駄目?
そう呟くと、志保さんは慌ててぶんぶんと横に頭をふる。
送ってくとか学校のこととか、気遣い方はやっぱり年上。
だけど対照的にあたしに対する仕草や行動、表情が幼くみえて可愛い。
学校に志保さんがいればびしょ濡れでも何でも行くんだけどな。
でも、さすがにそれはありえないし。
…授業参観のときとかなら実現可能かも?今度あったら聞いてみようかな。
ぎゅっと抱きついて顔が赤い彼女を見上げる。


「だから今日はずっと志保さん温めてね」


おでこをこつんと合わせ、はにかむ。
陽奈ちゃんはずるいなあ…と顔を赤らめる志保さんだけど、あなたもなかなかですよ?
そんな表情するからだってわかってないんだもん。
ほら、またそうやって笑うからあたしもつられちゃうんだよ。
身も心もあなたとといると、ぬくぬくします。




(1) ほら、今日はとても寒いですし(くっついていましょうよ)
 

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