ノットラヴ

□第9話、違う景色
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初めて藍澤にあったとき、こんな漫画のような子がいるのかと思った。
鼻先近くまである長い前髪、全体的に白く細い華奢な体つき。
映画に出てくるような、幽霊だとかおばけのエキストラ役にいそうで。

だけどいつからか前髪から覗く目は、嫌いじゃなくなった。
むしろ、めくったときの驚いた顔や怒った顔が楽しみなぐらい。
隙間から覗いた表情はあたしだけのものだと思っていた。
だけど


「藍澤前髪だよ?わかってんの?」


それを切る、いや伐採するとか言いだした。


「なんで今更」
「本田さんによく前髪わけられるので……」


空になったアイスのカップを握りながらあたしをチラチラと見ている。
こいつはいつになったら、あたしとまともに目を合わすのだろう。
歯切れの悪い物言いされると、気になるしイライラする。


「それが」
「ほ、本田さんが」
「あたしがなに」
「……あのやっぱり」
「あーもう!はっきり喋んなさいよ!」


思わず空になったカップをぐしゃりと握りつぶす。
その潰れたカップだったものを見て、藍澤はびくっと首をすくめた。
ああ、でたよお得意の困り顔。
この顔になると藍澤はなかなか話しださない。
案の定うつむいて「うー」と唸ってばかりいる藍澤に腹が立ち、強めに背中を叩いた。


「大体なんでそんなに前髪鬱陶しいの?理由は!?」
「こ、これはその……小学校のときにいじめにあって」


言いにくそうに、余計うつむいたところ悪いけどあたしはそこまで優しくない。
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