ハニートラップ

□第4話、自己紹介
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「は?小野寺さんの家までストーカーしてきたの?」
「郁美それ違う!先週一緒に帰ったんだってば。ストーカー違う!」
「一緒にー?家逆方向のくせによくいけしゃあしゃあと」


そう言いながら熱くなった鉄板の上にもんじゃの具を流し入れる。
キャベツや海鮮を軽く炒める郁は手慣れたものだ。


「あ、これチーズも入れようよ」
「はあ?自分のに入れてよ」


「絶対美味いのに……」そう言いながら座り慣れた椅子から振り返った。
カウンターの方を見ると、いつもそこにある姿が見えない。


「母ちゃーん!あたし餅ブタにチーズどっかり追加ねー!」
「自分でやんなさい!なにがどっかり追加よ」


藍染のエプロンを着た母ちゃんが厨房から顔を覗かせた。
髪も紺のタオルで頭を巻いていて、手にはエビを持っていた。
どうやら皮むきの途中だったようだ。


「ごめんねー郁美ちゃん、柊香うるさくてー」


郁美は「ほんとにだよ」と言うと母ちゃんは苦笑いをしながら、あたしにしかめっ面を向ける。


「ほら!柊香!」
「はいはーい。行きますよー」


のれんをくぐって厨房に入り、業務用の家庭用より1.5倍はでかい冷蔵庫を開けた。
袋に入った、こちらも業務用チーズを小皿に大量に盛る。
帰りにまたひょいっとのれんをくぐると、店内にいる常連のお客さんに話しかけられた。
へらへら笑いながら言葉を返すと、そのお客さんもつられて笑う。

今更ながら、あたしの家はもんじゃ屋だ。
母ちゃんと親父で二人始めた店は地元の人には結構人気で、夕方から夜にかけて結構繁盛しているとは思う。
土日は店を手伝って、平日はお金がどうしても欲しいときだけバイトしている。
といっても、時給は700円の激安だけど。まあ、仕方ない。
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