頂き物&捧げ物

□風邪っ引き人情論(萩原りこ様より)
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玄関のドアを開けると、案の定というか何というか、見覚えのある人物がそこに、いた。

「…よっ」コートにマフラー、耳当てまでしている幼馴染は、赤くなった鼻をずびっと鳴らして言った。「…風邪引いたっぽくてさ、看病してくれない?」



「……それで」

僕の持ちうる料理能力を総動員して、何とか作り上げることに成功したおかゆを、どう見たって健康な人のごとくがつがつと食べている幼馴染に、僕はげんなりとしつつも問い掛けた。…あぁもう!どんだけ作るのに苦労したと思ってるんだもっとありがたく食べろよ!しかもこういう時に限って母さんいないし!

「…何で風邪引いて僕のところなんかに来たの」
「ん、風邪引いたのはベルのせい。ヤグルマの森でたまたま会ったんだけど、ベルがうっかりつまづいた拍子に俺が突き飛ばされて川にドボン。で、風邪引いた」

ブラックは一旦スプーンを置いて、お茶をごくりと飲み下した後、ふぅと溜め息をついてまた言葉を続けた。

「でうっかり熱出ちゃったから家帰ったんだけど母さんいなくて。だからここに来た」
「…僕の家は君専属のホテルとかじゃないんだけれども」
「細かいことは気にすんな」

ブラックはそう言って会話を打ち切った後に、ごちそうさま、と言ってイスから立ち上がった。

「…何処行くの?」
「お前の部屋。ベッド借りるよ」
「はぁ!?おかゆ作らせた上にベッドまで貸すなんて、」
「良いから、頼むよ」
「だから僕は君の…っ」

僕は空っぽの皿を持ったままブラックの方を見て―――思わずぎょっとした。
ブラックは、顔をくしゃっと歪めて、震える唇を噛んで、…つまりは泣きそうな表情で、そこにいた。

「…ブラック…?」
「…っ、風邪のときってさっ…」
「…うん」
「…人肌、恋しくなるだろ?」

それで、とブラックは右手でぐしぐしと目を擦りながら言った。

「だから家に母さんがいないって知ったときに、お前に会いたいなって、思ったって、いうか…」

え、ちょっと待って。


何 こ の 可 愛 い 生 き 物 。


「…ブラック」

僕は皿を一度テーブルの上に戻して、ブラックの頭にそっと手を置いた。ぴくっと跳ねたブラックの体は、やっぱりいつもより熱い気がした。

「君、やっぱり寝なよ。僕のベッド貸してあげるから。だってそんなデレるなんて君らしくないよ。君はもっと僕に悪態をついて、僕の言葉をスルーすることも日常茶飯事だっただろう!?早く治して僕をもっといじめなよ!そんな可愛い君は君じゃな―――」


ばちーん。










風邪っ引き人情論

(…?何で僕ぶたれたんだ…?まぁグーじゃなかっただけ良かったとするか…)
(まじ空気読めよ!あのハゲ!)
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