教科
□おかえりなさい!
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キラキラとした朝の日差し。忍術学園の校門の前に、今日も僕は立つ。
「ううん、今日もいい天気だなぁ」
箒を持ちながらちょっと伸びをしてみる。清々しい風をいっぱい吸い込んで、今日も一日頑張ろう、なんて自分に言ってみる。いつも吉野先生に叱られてばかりだけど、そんなのにめげてちゃ立派な忍にはなれないからね。
掃除を始めて半刻した頃、ぽつん、と鼻の頭に何か当たった。空を見上げるとあんなに晴れていた青空には雨雲がかかっていた。
「うわぁ、入門表が濡れちゃう!」
僕が自信を持ってこなせる仕事。それで失敗なんてしたくない!
懐に入った入門表を守りながら、校舎の中に入ろうと走る。校舎に入ると、雨はいっそうその強さを増した。やっぱり中に入って正解だった。ほらね、僕はこの仕事だけは失敗なくやり遂げられるんだ。
「おや、小松田君」
「あ、吉野先生!」
「もう中に入っていたんですね。今呼びに行こうとしてたんですよ」
「大丈夫ですよぉ」
ね、僕もやれば出来るんだ。雨に濡れて廊下を汚したりしないもんね。以前吉野先生にこっぴどく怒られたからね…。
「ところで小松田君…」
「はい!」
「箒はどこにやったんですか?」
「………あ、」
そ、そういえば校門に置きっぱなしに…。
「はぁ…まあ今日は仕方ありませんから中で書類を「探してきます!!」え、ちょ、小松田君!?」
☆ ☆ ☆
冷たい雨が体を打ちつける。
慌てて飛び出したから傘を差してくるのを忘れちゃった。でも箒!こんな風も強いんだから、放っておいたら竹の箒なんて折れちゃうかもしれない。そんなことになったら大変だ!
「あ、あった!!」
よかった、壊れてないみたい。すぐに回収していこうかと思ったら、校門から音がした。風ではない、人工的なノックの音。しかも、弱々しい。
「ど、どなたかご用ですかぁ?」
雨風の音に負けないように声を上げてみる。と、返答が帰ってきた。
「利吉です、開けてくれるかい、小松田君」
「あ、はぁい」
こんな雨じゃ大変だ。そう思っていそいそと扉を開けると…
血まみれの利吉さんが倒れこんできた。
「利吉さん!!!?」
たた、大変だ!
すぐに医務室に連れて行かなきゃ!
利吉さんを肩に背負って医務室へ急ぐ。利吉さんは雨のせいか、怪我のせいか、凄く冷たかった。いつも暖かいこの人を知っているだけに、余計に怖い。
新野先生とその場に居た伊作君に急患の旨を伝えると、二人とも顔を蒼くして手当てを始めた。
一刻もしただろうか。治療は無事に終わり、利吉さんは医務室の布団に寝ている。早期の手当てのかいあってか、これと言って心配事もないようだ。良かった…。
「…利吉さん、」
「…なんだい、小松田君」
「!利吉さん、起きてたんですか!?」
独り言のつもりで呟いたから吃驚した。まさか起きていたなんて。
「具合はどうですか?」
「だいぶ楽になったよ。流石は新野先生と保健委員長だね」
僕も手伝ったんだけどな…。でも、今の利吉さんに負担をかけちゃいけない。ここはグッとこらえよう。
「小松田君」
「はい?」
「入門表」
「あっ」
忘れてた!懐にしまったままの入門表を取り出す。雨がしみてふにゃふにゃになっていた。がっかりしていると入門表が手元からなくなった。あれ?と思っているといつの間にか利吉さんの手に入門表。いつとられたのかなぁ…。
「はい」
「あ、ありがとうございます」
「書かないと君に怒られちゃうからね」
悪戯に笑いながら入門表を渡してくる利吉さん。ちょっときゅんとしたのは僕だけの秘密。
「あ、そうだ利吉さん」
「なんだい」
「前に来た時に言ってましたよね、忍術学園はもう一つの家みたいなものだって」
「ああ、そんなことも言ったかな」
「じゃあ挨拶!」
「へ?」
だって、これは常識だよね
忍術学園(ここ)に帰ったらちゃんと僕が待ってます
僕が一番最初に挨拶するんだ
「ただいま、小松田君」
フッと微笑んだ利吉さんに、僕も最高の笑顔で返すんだ
おかえりなさい!
小松田君、
はい?
頑張ったね
(唇に落とされたキスは
とても甘かったです)