お題:日常シーン10題
『風の強い日』
by確かに恋だった





「最悪です……」


頭を抱え、溜め息を吐く。

重い気分を引き摺る理由は、昨夜見た夢。



かさついた手で擦った額は、切り揃えた前髪でざらりとする。

彼女は以前、この髪を眺め、艶のある綺麗な直毛だと評した。

そう、彼女。

羨ましげに指を差し入れ髪を梳いていた白い手。



それが、この背中に回っていた。

覆い被さる自分にしがみつくように、細い腕を伸ばして。

その自分の目の前には、滑らかに手に吸い付く柔肌。

触れれば伝わる体温に、目眩を起こしそうになる。

それでも焼き付けるように彼女の白い肌に見入っていた。

その白さは淡雪のようで、もしや溶けるのではとおかしな疑問を持つ。

そして、確かめるべく顔を近付け、舌を――



「うああああああ!」


煩悩を払うように、拳で頬を殴った。

おかげで感覚だけはなんとか現実に戻る。

それにしても、幻術にでもかかったかと思う程、リアルな夢だった。

あのぬくもり等、まるで本物の彼女の。



甦りそうになった邪な感覚に、もう一発顔を殴りつけた。






「り、リー君、どしたのその顔」


集合場所に訪れた僕を見て、彼女はぎょっと目を見開く。

腫れはギリギリまで冷やしてきたのだが、まだ目立つらしい。

だが、これから彼女と泊まり掛けの任務なのだ。

劣情は払っておかねばならない。


「だ、大丈夫です! これも修行の成果。青春です!」


ナイスガイポーズで笑う。

実際は青春どころか、完璧な春色だ。



訝しげながらも、彼女は今日の任務へと意識を移し、それ以上の追及はなかった。

内心安堵しながら、僕も任務の確認など行う。

ルート決めのため、地図を広げ、彼女が指で道を辿る。


「今日は、風が強いから。安全なルートを通って行かないと」

「そうですね。この崖は避けて、こっちの森を通りましょう」


そう言って顔を上げた、時。

噂を聞き付けたように、疾風が舞った。

それは、彼女の服の裾を持ち上げ。



僕の視界を、昨夜見たような白で埋めた。


「心頭滅却ゥ!!」

「え、リー君!?」


その時、彼女は僕の頬がどうやって腫れたかを知った。









『百八つの殴打を』


平伏。m(._.)m



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