刀剣乱舞
□優しい人
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「主、今よろしいでしょうか」
「はい。どうぞ」
「失礼致します。報告に参りました」
「お疲れ様です。すいません、休んでいたのに出陣させてしまって…」
「いいえ、お気になさらず」
「今度こそ ゆっくり休んで下さいね」
「はい。ありがとうございます」
「折角 短刀の子達と遊んでいたのに邪魔しちゃいましたよね。本当にすいません」
「仕方のないことですよ主。それに、弟達の面倒は薬研に引き継いでもらいましたし」
「薬研さんもしっかり者ですよね」
「はははっ、ですな。兄として弟の成長を見るのは嬉しい限りです」
「でも彼は滅多に甘えたりしませんから、少し心配にもなります。薬研さんも、一期さんも」
「えっ、私も…ですか?」
「そうですよ。いつも短刀の子達を優先にして自分のことは後回しにするでしょう?」
「あー、ははは…」
「是非とも甘えて欲しいのですが…人生の半分も生きていない小娘に言われても困っちゃいますよね」
「いえ、そのようなことは…」
「一期さんが休める場所は やはり短刀の子達のところなんでしょうか…皆ゆっくり出来る時間を作らないといけませんね」
「お心遣い感謝致します」
小さな体で多くの者を纏め率いる彼女には感心している
平等に接し、誰かが怪我をすれば悲しみ、時には涙を浮かべながら力を尽くす
「主」
「はい。何でしょうか」
「確かに弟達の側は落ち着きます。ですが、主の…貴女の側も私は落ち着けます」
そう伝えると驚いた顔をし、頬を染めながら嬉しそうに笑顔を浮かべた
それを見た瞬間に胸の奥から湧き上がる自分の知らない感情。刀にとっての幸福とは違うそれは、人の幸福なのだろうか
「主。人の体を与えてくれたこと本当に感謝しております。こうして主に触れられる…幸せなことです」
「私も皆さんに出会えたこと本当に嬉しいです。いつもありがとうございます、一期さん」
「はははっ、いつもは弟にしているというのに 自分がされる側だと照れてしまいますな」
膝立ちで私の頭を撫でる手は小さなもので、こんな小さな手が 体が、自分達を支えているのかと改めて実感した
「たまには甘えるのもいいものでしょう?」
「ええ、そうですね」
「また甘えて下さいね!私いつでも待ってますから!」
「あはははっ、それは頼もしいですな」
縁側を駆ける複数の足音が聞こえ、弟達がひょこりと顔を覗かせた。走っては危ないと あれほど注意したのだが…
「あっ!いち兄も居る!」
「乱、五虎退、前田。走ってはいけないと言っただろう」
「うぅっ、ご…ごめんなさい…!」
「まぁまぁ一期さん。元気でいいじゃないですか」
「ですが…」
「五虎退さんも泣かないで。確かに何かあったら危ないから次から気を付けましょう」
はーい、と返事をする彼らを見て また主は嬉しそうに笑った。妹のようであり姉のようであり…思わず頬が緩んだ
「主君!一緒に遊んでくれるって約束忘れてないよね!」
「勿論!」
「じゃあボク達は先に行ってるから来てね!いち兄も!」
はしゃぎながら戻っていく。小さく溜息を漏らすと主は笑って私の手を握った
「あ、主?」
「行きましょう一期さん!皆が待ってますよ!」
「そ、そうですね。行きましょうか」
人の気持ちを知ってか知らずか……前を歩く彼女と繋がれた手に視線を落とし、離れぬようにと力を強めた
ーーENDーーー