四天宝寺

□居残り
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「千歳お疲れさん」
「おー。謙也も財前も気ぃばつけて」
「お疲れっした千歳先輩」


ぺこっと頭を下げる財前と笑顔で手を振る謙也を見送ると、背中に衝撃がきた


「千歳!今度ワイと試合しような!」
「お手柔らかにお願いするけんね」
「ほな、月曜日なー!」


背中にしがみついていた金ちゃんが離れて部活が終わった後でも全速力で走って行った


「あとは……」


部員がコートから出ていくのを見てから、もう一度部室に戻る


「何してんの。みんな帰ったで?」
「ん、知っとるよ」
「なら、はよ帰りぃや」


置いてある椅子に後ろ向きに座って帰ろうとしなかった


「部長さんはえらいやね」
「…えらい?どの意味の?」
「あー…大変?」
「なるほどなぁ…これも仕事の内やから仕方ないわ」


「で、結局帰らへんのかい」
「恋人ば置いて帰るなんて出来んたい」
「……もう勝手にしぃ」
「はーい」


ため息をついて止まってしまったペンを再び動かし始めた


「終わった後、残っちると?」
「ん?まぁ今日はたまたま。あんま溜め込んでも大変やしな」


白石の手元を見ると月曜日の試合メンバーの名前を書き込もうとしていた


「見たアカンで。秘密や秘密」
「えー」
「えー、ちゃうわ。可愛く言ってもダメ」
「じゃあ楽しみにしてるたい」
「おん。そうしといて」


「そういえば金ちゃんに催促されたばい」
「千歳と試合させろって?」
「ん」
「あー…どうにかせんとアカンなぁ……」


左手に巻かれた包帯に触れてブツブツと何かを言っている。対、金ちゃん用の秘策でも考えているのだろう


「なぁ白石ぃ…」
「甘えても何にもないで?」
「…イジワル」
「こんなでっかいのが甘えてきたらビックリやわ」


「一緒に帰ってもよか?」
「そのために俺を待ってくれてたんやないん?」
「そうばってん…」


白石がため息をついたのが気になって俺は顔を上げた


「千歳は俺と一緒に帰りたないん?」
「そげなコトなか!!」
「なら一緒に帰ろうや。な?」


陽だまりみたいな笑顔で俺の頭を撫でる白石に頬が緩みまくった


「何で俺のこと好きなん?」
「え?」
「カワイイ子…いっぱいおんねんで?ましてや俺、男やし…」


そんなことを言うと急に唇を塞がれた。急すぎて酸素が足りずに力が抜けて持っていたシャーペンがガチャンと音を立てて落ちた


「はっ…はぁっ……!」
「白石以外考えられんけん」


千歳はニッコリと笑って、再び椅子に座った


「ホンマ…力抜けるわ…」
「まだ終わらん?」
「先帰ったら?めっちゃ待たせるかもしれんで?」
「何時でも待っちゃる」
「…おおきに」


落ちたシャーペンを拾って続きを書き始める。


カリカリと音を立ててシャーペンを走らせると一息ついて手を止めた


「帰ろーか」
「ん、終わったとや?」
「おん」


パタンとノートを閉じるとテニスバックを担いだ


「なぁ今日、千歳ン家行ってもええか?」
「え」
「カギ忘れてん」
「あー……よかよ」


「変なことせんといてや?」
「厳しか厳しか」
「まぁ…言うほど嫌ちゃうねんけどな」
「…急に言うのはズルか」


白石は「仕返しや」と言って意地悪そうに笑ってみせた


「あのノート書き終わったと?」
「終わってへんで?」
「なして終わったっち……」
「だって…」
「?」


「早く千歳と一緒に帰りたかってんもん」


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