11/25の日記

15:19
題名が思いつかないけど、UPしてみる
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※注意 アルエドです(多分)

●第1話

今日は休日で、ちょっと遠くまで買い物に出かけようと思っていた。
流行のニットでも見てみようかと、先日通販で購入したロングの亜麻色のウィッグをつけて。
いつもはすっきりとした短髪だから、がらりと印象が変わってバレにくいだろう。
とはいえかなり大柄な女性だが・・・。
ローズ系のグロスを引いただけで、もともと色が白いせいか目を引く印象になる。
靴はカジュアルなスニーカーを履いた。
誰もいない家に「いってきます」と告げて、扉を閉める。
マンションの裏の非常階段を使って駅に向かい、混雑する電車内へと乗り込んだ。

こう書いていると女性だと思われるだろうが、ボクは男だ。
正真正銘、17歳の現役高校2年生。
定期券にもちゃんと『アルフォンス・ホーエンハイム 17歳 男性』の記載がある。
ただ少し違うのは・・・女装癖がある事。
といっても本当に趣味なだけで、恋愛の思考は女性。
色々あって気が付けば趣味が女装という、ちょっと痛い男子高生になっていただけなんだ。
もちろん父親には内緒だし、友人にだって秘密だ。
あ、母親はボクが幼い頃に離婚してしまったのでいないんだけど。
別に母恋しくてという訳でもないから、本当に『趣味』なだけ。
ガタガタと電車に揺られながらつり革につかまっていると、ちょっと先に顔を真っ赤にして後ろを鋭い目つきで睨んでいる男の人がいた。
歳の頃はボクと同じか、ちょっと下かなという感じ。
長い金の髪を三つ編みにして、よく似合っているなとか見ていた。
でも動きがおかしい。
もぞもぞとその場から離れようとしているらしいが、混雑さに上手くいかずそれに少々背が小さめだ。
そこでピンときた。
ああ、痴漢されてるのかな、と。

今は女性だけが痴漢にあっているわけではない。
それは十分知っている。
・・・何故ならボクもその被害者だから。
ボクを痴漢する相手は女性だった。
だから被害に合わない為に女装しはじめたら、いつの間にか趣味になっていた。
きっと彼もそうなのだろう。
まあ、彼の場合は男女問わずされそうな容姿だけど。

大きな体格を利用して彼の方へとグイグイ寄って行く。
そして一回り小さな身体を痴漢から隠すように割って入った。もちろんその加害者であろう女性ににっこりと口元だけ笑いかけながら。
何故かボクがこうすると恐怖心を与えるらしい。
ドアの方へと彼をエスコートして、文字通りの壁になってやった。

「あ?あの・・・」

意味不明らしく不安げにボクを見上げているが、ウィンクで合図をすると意図を組んでくれたらしい。
なるべく身体に触れないように腕に力を入れる。痴漢から助けたのに、痴漢じみた行為をしたら本末転倒になっちゃうからね。
まあ、今のボクは女性の姿をしているから男の彼からすれば不本意だろうが仕方がない。でもこの彼、可愛らしいな。
確か4月の健康診断でボクは175センチだったから、それよりも伸びてると思うけど彼の頭の上にあごが乗りそうだよ。

次の駅でドアが開くと彼と一緒に電車を降りた。
他の車両に移るもよし、次の電車に乗り換えるのもいいだろう。
自分の経験上、駅員に訴えるのは気が引けるから多分それは彼もしないと思った。
ちょっとナイト気取りで手を振ってその場を軽やかに離れようとしたら、袖を掴まれた。

「あ、ありがとうな。・・・助かったよ」

その彼にボクは黙ってうなずいた。
だって声を出したら男だってバレてしまうから。
こんなデカい女性が男声だったらやっぱり怖いしね。そういう自覚はある。
「あの、その・・・よかったらお礼させてくれ!」
必死に頼む姿がなんとも健気でボクは思わずうなずいていた。

駅から出て、近くのファミレスに行ったんだけど困ったことになった。
何故なら会話ができないから。
声を出さずにいたら勘違いしてくれたらしく

「・・・あんた、その・・・話せないのか?」

と眉をひそめて申し訳なさそうにボクの顔を覗き込む。
嘘をつくのは不本意だったので、そうだとスマホのメモ機能を立ち上げて書きこみ画面を見せた。

『ゴメンなさい、声が出ない訳じゃないのだけど、今は話せないの。気を悪くした?』
「そっか、でも構わねえよ。オレはエドワード・エルリック、高校3年生だ。あんたは?」

内心、驚きの声を上げそうになった。
だって年下かと思っていたら、まさかの年上でしかも知ってる名前だったから。
まじまじと顔を見れば、やっぱりそうだと指が震える。
でも動揺している気持ちを悟られない様に、スマホを操作した。

『私はアール。都心の女子大学に通う1年生です』
「やっぱり年上か・・・背も高いし、モデルかと思った」

にっこりと笑う顔が確信に変わる。
出来ればこんな出会い方したくなかったと後悔したが、もうどうしようもなかった。
エドワード・エルリック・・・彼はボクの兄さんだ。

両親が離婚した時に、兄さんは母さんに着いて行ったから12年ぶりの再会で覚えていなくても仕方ない。
でも名前とこの笑顔は知っていた。当然、兄さんはボクが弟だと気が付かない。
父さんに似てるなとか、そんないい高校に進学したんだとか、スマホを使いながら会話を続けた。
もちろん、ボクの方の私生活情報は嘘ばっかりだけど。
だって久しぶりに会えた弟が、女装して電車に乗っているなんて知らない方が幸せだろう。
罪悪感にチクリと胸が痛んだが、それでも兄に逢えて嬉しい気持ちがわく。
完全にボクを女性だと思い込んでいるから、それも手伝って色々な事を話した。
女装を除く趣味は合うし、相変わらずミルクは嫌いらしい。
声を出さずに笑うのは難しかったけど、それでも楽しくて時のたつのを忘れて気が付けば外は暗く夕方になっていた。

『そろそろ帰らないと・・・』

と画面を見せる。別に遅くなっても構わないけど、このままずるずると一緒に居てはいけない気がしたから。

「そっか、もうこんな時間なんだな。なんか、アールさんと初めて会った気がしなくて長い事引き留めちまってゴメンな」

そうだよ、初めてじゃないよとは言えず笑顔を向けるだけで精一杯だった。
おごってくれるという兄さんに、設定上ボクが年上だからお金を出そうとすると

「ここは男を立ててくれ、な?女性に痴漢から助けられて、ここも払わせたんじゃ男がすたるってもんだろ」

などと言われてしまった。
会計を済ませるとすっかり寒くなっていた。

「そういえばなんか予定があったんじゃねえの?せっかくの休日だったのに」
『買い物でもしようかと思ってただけだから、特に用事はなかったんだ』

と答えると、ちょっと考えて

「あのさ、来週の休日!荷物持ちやるから、一緒に買い物行かねえか?オレも買いたいもの有るし」

とたどたどとボクに話しかけた。
ああ、兄さんはこの『女装してる男のボク』に恋をしてしまったんだなってわかった。
なんどかボクだって告白をされた事があるからわかる。
もちろんそれは女性からだけど、心臓バクバクしながら言ってるんだろうなって。
だからきっちりと断らなくちゃいけないってわかっている。
騙し続けるなんて無理だし、しちゃいけない。
なのにボクはゆっくりとうなずいていた。


・・・続く?

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