ボクの事情

□ボクの事情 3 (初夜)
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ボクの事情 (初夜)



荷物は午前中に出したからエドワードのマンションへ先についている頃だ。
狭いなりにニーナと二人で過ごした部屋は今はガランとしていて、何もない。

「パパ、このお部屋って広かったんだね」
「ああ、そうだね」

大学を出て一人で暮らし始めた部屋だったが、ニーナと二人になり思い出の詰まった場所になった。
夜中、不意に泣きだしたニーナを抱えて一晩中うろうろとした事もある。
あの時は周囲の反応が怖くて、そのまま寒空に毛布を巻いて出かけた事もある。
それも最近ではなくなり、ニーナも成長してるのだなと感慨深かった。
いい事も悪い事もみんなまとめて今日ここから出て行くのだ。

「ねえパパ。でんぐり返ししてもいい?」
「いいよ。やってごらん」
「わーい、見てて見てて!」

やけに広々とした部屋で、遊びたくなったらしい。
今は昼間で多少物音がしても大丈夫だろう。

今まで使っていた洗濯機や冷蔵庫、テレビなどはすべてリサイクルショップで売ってしまった。
それがそのまま、引っ越し資金に化けた。
必要最低限の物しかエドワードのマンションには送っていない。
だから、もし嫌でもすぐに出て行くわけにもいかないのだ。
はあ、と小さくため息をつく。
どうしても考えるのは…エドワードとの生活。

ただのルームシェアとは違う。
トラの口に自ら入りに行くウサギのようだと、アルフォンスは思っていた。
でも、それさえ我慢すればニーナと一緒に暮らせるのだからと、何度も自問自答していた。

「絶対、ボクの事をからかって楽しんでいるだけなんだよな。性格悪い…」

等価交換で出された条件が、『月4回の性交渉』という到底理解しがたい内容だからまたため息が出る。
男同士で、しかも娘がいるのにもかかわらず…。
もっとも先にそういう話を持ち出したのは自分なので、一番悪いのは自分なのだが。

「パパ?」
「上手だね、ニーナ。さあ行こうか?」
「うん!楽しみだね〜先生のおうち」

娘の方は新しい生活を嬉しさで胸を膨らませていた。
本当の事など知らない。
姉と過ごしていたのも狭いアパートだったから、きっとどんなマンションでもお城の様に思うだろう。
こうしてアルフォンスは住み慣れていた小さな小さな部屋を出たのだった。



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