エドアル その1
□歪んだ王国 2
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『歪んだ王国』2
あの病院へも、近寄らない方がトラブルに巻き込まれなくていいと思っていたのだが、世の中そう思えば思うほど逆のベクトルへ向かうものなのだ。
「大佐、ハクロ少将からご指名でこの書類を病院まで持参してもらいたいそうです」
「人気者はつらいな。私は暇ではないのだが…」
「言いたい事はわかりましたので、持っていってください。」
ニコリともせず私の副官であるリザ・ホークアイ中尉が茶色の封筒を渡してきた。
「中身は何だね?」
「存じません、内密にとの事でしたので」
やっかいの種にならないといいのだが、と重い気持ちで封筒を受け取った。
丁寧に蝋で封がされている。
「同行したまえ」
「…イエス、サー」
とてもじゃないが、一人で行く気がしない。
はァ、と短くため息をつく。
病院の前に行くと、幼い少女が近寄ってきた。
手には道端で摘んだのか、はたまたどこかの家の庭先で摘んできたのか小さな黄色の花の花束をいくつか抱えていた。
「軍人さん、お見舞いにお花いかがですか?」
見ればブカブカの靴に、着古した様な上着を羽織っている。その娘にあう服を着れば、さぞかし可愛らしいだろう。
この国は軍事国家で内乱も他国との紛争も絶えない。
そのような状況で、親のいない子や満足のいく収入を得られない身体になった親達が増えているのも事実だ。
だからわずかでも日々の金銭を得るために、こうして子どもが働くことなどこの国では当たり前の事になりつつある。
いちいちかまっていたら、いくら金があっても足りないと分かってはいるのだが。
「…いくらだね」
「一つ200センズです」
「そうか…、では全部もらおう」
「えっ、いいの?」
ぱあっと、笑顔になり持っていた5つの花束をもらう。代金を払うと、
「ありがとう、軍人さん。いい事がありますように!」
と跳ねるように掛けていった
「大佐、お優しんですね」
「私は世の中の女性、すべてに優しいのだよ」
と可愛らしい花を抱えて見せる。
「しかし、どうなさるおつもりですか?そのお花。失礼ですが、少将にはお渡しにならない方が…」
確かに、昨日は豪華な花を見舞に持っていったばかりだ。
かと言って、あの娘が大切に摘んできたであろう花を捨てるなど出来ない。
「…仕方がない、顔を見に行くか」
「大佐?」
怪訝そうに黙ってついて来る中尉。
少将のいる部屋のかなり手前の病室の前で止まり、ノックをする。
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