・シンフォニーとバッカス

□シンフォニーとバッカス 2nd 2
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オレの家は、作曲家の親父と声楽家の母親と舞台女優の姉さんと、ピアノ弾いてたオレの4人家族だ。
家にはいつも音楽が流れていて、物心つく頃にはピアノの前に座っていた。

最初はオレの伴奏に合わせて歌う、母さんと姉さんが嬉しくて弾いてた。
でもそれがいつしか、ピアノを弾く事が楽しくなって、気がつけば一日中時間さえあれば弾いてた。

当然の流れで、コンクールとかコンテストとかにも出てみたりして、次々に優勝なんかした日には『さあ、留学だ。』なんて話になってた。
確かに、今のこの国じゃピアノだとかの関心やレベルは低い。

オレももっとピアノが上手くなりたくて、14歳になると単身でウィーンに留学した。
同じようにレベルの高い演奏者が居て、毎日が驚くくらい刺激的で楽しくて。
でも、少し余裕が出るといきなりホームシックにかかっちまった。
ピアノは弾きたいけど、一人っきりって気がして淋しくなった。

そんな時、ウィーンで出会ったのがコンダクターを勉強していたロイだった。
20歳のロイは、自信家でそれで居て自分自身にもストイックだった。
その凛とした強さに、オレは惹かれていった。
自分が望んできた場所なのに、泣き言を言ってる場合かって気がついたんだ。

才能があふれていて、憧れの存在だった。
そんな憧れの存在が、オレのピアノを褒めてくれた。

『君のピアノは、他にない響きがある。』

なんて言ってくれて。
もっともっと褒めてもらいたくて、それ以上に腕を磨いた。
毎日毎日、それこそ食うのも忘れて練習した。
それと比例して周りの評価もどんどん上がるし、CDデビューだのソロコンサートだの話が出て挑戦してみた。

それと同じように、ロイもオレを見てくれるようになったんだ。
ロイの方も注目を浴びるようになって、世界ツアーなんかも組まれた。
その楽曲でピアノがあれば、必ずオレを指名してくれて。
一緒にいるのが楽しくて、もっと好かれたくてピアノも私生活もロイの思うとおりにしたくなった。

とうとうオレの思いが通じて、恋人同士になると益々拍車がかかっていた気がする。

『私の思ったとおりの演奏を、エドワードは120%理解して演奏してくれる。』

関係者にもそう公言して、嬉しいのと恥ずかしいのとごっちゃになって浮かれてたし。
ロイにはオレしか居なくて、オレにもロイしか居ない。
そんな関係。


だったと思って居たんだ。


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