・シンフォニーとバッカス

□シンフォニーとバッカス 5
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エドワードの回想



そいつはある日突然、ふらっとやってきた。
もうこの世の終わりだと言わんばかりの表情で。
たまにいるんだよな、この店にそんな顔して入ってくる奴が。
かつてのオレがそうだったように・・・。


変な奴だった。
落ち込んでる割には、オレの言うこと聞いて野菜ジュース飲むし、飯もがっつり食うし。
音楽なんか興味なさそうなくせに、他の客の演奏を楽しげに聞いてるし。
顔もよく見りゃ、温和でいい顔してるくせにかっこつけないし。

そいつの事、初対面なのに常連客が気に入っちゃってガンガン飲ませてな。
断りゃいいのに、一緒になって飲んで騒いで…つぶれちゃって。
お会計だって、あいつの頼んだのはそんなにないけど、勝手に飲ませた分までちゃんと払うってきかなくて。

マジメなんだよ。

結局、財布の中身全部だしても少し足りないなんてマヌケだなって笑ってたら。

「じゃあ、これを代わりに。」

とか何とか言い出して、ダイヤの指輪をケースから出してきて。

「馬鹿か、そんなのいらねえよ。」

拒否しても、

「給料の3ヶ月分だから、そんなに安物じゃないよ。君に受け取ってほしいんだ。」

なんて、オレの左手掴んではめやがって。
すごい嬉しそうに笑うから、『後ではずしてこっそりポケットに返すか』とか思ってんのにきつくて外れねえし…。
まいったよな。

高そうな指輪…っていうか、これ婚約指輪だよな…?
つう事は、渡そうと思っていた相手が急に居なくなったって事で…。
つまり振られたってわけだろうな。

顔も性格も良さそうなのに、いったいどんな女が振ったんだろう。



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