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□ひとつかみの雨
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異国の地に立つエドワードは、途方に暮れていた。
言葉もままならず、そして地図も物の見事に無くしてしまっていたからだ。
ホテルにトランクを預けたままだったので、今持っているのは財布と銀時計と甘栗。
匂いに誘われて買った甘栗は、美味しかったが迷い人の支えにはならない。

「どうっすかなぁ〜」

一緒に悩んでくれて、そして答えてくれる相棒はもう居ない。
心の中にはいるが、話す事は叶わない場所へと旅立ってしまってもうすぐ1年になる。
仕方なく、栗を食べてから考えようと頭を切り替えた。


『ひとつかみの雨』


入り組んだ路地の間から、言い争うような声がした。
ドスのきいた声と、高い女性の声。
ふとその声の方を向けば、男が女の腕を掴んで言い争いをしているようだった。

「なんだ?痴話喧嘩か??」

ぱくりと栗を頬張りながら見ていたが、どうやら雲行きが怪しい。
太い腕を振り上げて、男は女に殴りかかろうとしていた。
思わず反射的に持っていた栗を投げつける。
しかも力いっぱい投げたものが、男の頭へクリーンヒットした。

「@*6kp%$!!」
「悪いな、こんにちはとかの挨拶くらいしか出来ねえんだ。何言ってんだか解んねえよ」

怒鳴り散らしながらエドワードへと向かってくる大男をひらりと交わし、機械鎧の左足を腹に叩きこむ。
男は呻いたかと思うと、その場に倒れて気絶した。

「女性に優しくしないと、弟が怒るからさ。悪く思うなよ」

などと、悪びれもせずにまた栗を頬張った。
襲われていた女性が恐る恐るエドワードに近づく。
つばの広い白い帽子で顔が見えなかったが、それをクイとあげて微笑んだ。

「ありがとうございます、旅のお方。助かりました」
「ああ、気にする・・・・・・・な」

女性はまだ少女のようだった。
金色の髪を背中まで伸ばし、大きな金の瞳で長い睫毛が縁取っていた。
服装もいい所のお嬢様らしく、美しいデコルテの強調される品の良いドレスだった。
左手にはフリルのついた日傘を持ち、小さなバッグが白い手袋をした手に持たれていた。
その少女の顔を見たエドワードは、動きが止まってしまった。


何故なら自分の最愛の人物に似ていたからだ。


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