ボクの事情
□ボクの事情 3 (初夜)
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おそるおそるエドワードの寝室のドアをノックする。
どうぞと声を掛けられて、緊張で手が震えながらも静かに扉を開けた。
「おう、来たな」
「来いって言ったの…そっちだろ」
独身男の一人寝用にしてはかなり広めのベッドが目に入った。
きっと、いつも女を連れ込んでココで事をしてるのだろうとアルフォンスは理解する。
そしてまた音を立てない様に、静かに扉を閉めた。
「色気のねえ格好だな。スエットの上下かよ」
「いいだろ?いつも寝る時はこれなんだ」
「まあ、どうせ脱いじまったら関係ないけどな」
その一言に頭が沸騰する。
さっきのケトルのごとく、音を立てて湯気が出そうだ。
「こっち来いよ」
促されるまま、エドワードのベッドに近づく。
以前、関係を持ったとはいえ馴れているわけではない。
それに今後も馴れる訳にはいかないと思っている。
男同士の情交に馴れてどうするというのだ。
これも仕事だと割り切り、関係を持つだけの話なのだから。と諦めた。
エドワードがベッドを少し横によけてアルフォンスの場所を空ける。
空いた場所に恐る恐る身体を横たわらせた。
以前は何をするかよく解っていなかったからすんなりと居られたが、またあんな風に触られるのかと思うと身体が強張る。
男らしくも無い高い声と吐息と…その他もろもろが自らの口から出てしまうのかと怖かった。
自分でなくなる様な、そんな高揚した感覚。
認めたくなかった。
「本当にあの後、他の男に身体売ってねえだろうな?」
「売ってないよ。二度とするもんかとか思ってたくらいだし…」
「へえ、でもオレとならいいんだ?」
「よくないけど…ニーナがこの家を気に入ったみたいだし、それにボクだって助かるから…。だから仕方なく…だよ」
「その割には顔、真っ赤だぞ?なんだ、オレと一緒に居て緊張してんの?」
「してないよっ!ニーナの看病とか、引っ越しとかで疲れてるだけッ!」
そう言いつつも発熱しているように身体が熱い。
期待なんてしてない。
なんどもそう頭で繰り返した。
「…とりあえず明日からニーナも保育園に行けそうだから、就職活動を再開する。一日も早くここから出られる様にするから…その少しの間…よろしくお願いします」
「オレはいつまで居てくれても構わねえけどな。まあ、その間しっかりオレにご奉仕ししろ」
「ご、ご奉仕って…」
何をさせられるのだろうと背中がヒヤリとする。
本当に寒気がしてきた。
「アルフォンス」
ゆっくりとエドワードの手が伸びて、アルフォンスの髪を撫で上げる。
顔が近づいて思わず目を強く瞑る。
キスされると思って、唇をぎゅっと結んだ。
気持ち悪いとか、嫌だというより…恥ずかしかった。
どんな顔をして受け止めればいいのか、解らないから。
でも、いつまでたってもその後は触れてこなかった。
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